研究課題/領域番号 |
18J00191
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
湊 拓生 九州大学, 工学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 水素 / ポリオキソメタレート / ヒドロゲナーゼ / 触媒 |
研究実績の概要 |
本研究では、金属多核構造において、活性中心の触媒メカニズムとして重要な高原子価金属中間体の構造と酸化還元過程を解明し、優れた触媒の設計と開発を行うことを目的としている。 水素を酸化しプロトンと電子を貯蔵・利用することは、水素エネルギー社会の実現やグリーンな触媒システムを構築する上で重要な技術である。高原子価のW6+やMo6+で構成される分子状の金属酸化物クラスター(ポリオキソメタレート)はプロトンと電子を蓄えることが可能であるが、水素を用いて均一系でポリオキソメタレートを還元することはこれまで困難であった。 ヒドロゲナーゼは水素を効率的に酸化することが可能な酵素であり、{NiFe}などの活性中心金属をタンパク質内に有している。ヒドロゲナーゼの活性中心を模倣したモデル錯体を用いることによって温和な条件での水素酸化とポリオキソメタレートの還元が可能であると考え、新規触媒反応システムの構築を試みた。 本年度はヒドロゲナーゼモデル錯体とポリオキソメタレートを組み合わせることにより非常に温和な条件で水素の酸化が可能であることを見出した。速度論解析より反応機構を推定することもでき、ヒドリド錯体経由で反応が進行していることを確かめることができた。酸化剤の添加によって還元されたポリオキソメタレートから再び電子を取り出すことも可能であった。また、本触媒システムは水素を用いた均一系での無機化合物の還元において、非常に高い触媒回転数を有していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヒドロゲナーゼモデル錯体及びポリオキソメタレートの合成とキャラクタリゼーションを行い、両者を組み合わせることにより水素の酸化とポリオキソメタレートの還元が可能であることを見出した。基質等量、pH、温度などを変え様々な条件で反応を行うことにより最適な触媒反応条件を探索した。また、これらのデータをもとに速度論解析を行い、ヒドリド錯体経由で反応が進行していることや水素酸化の活性化エネルギーが大幅に減少していることを明らかにした。さらに、均一系で水素を用いた無機化合物の還元において、本触媒システムが最も高い触媒回転数を示すことを明らかにした。本研究は論文としてまとめ投稿済みである。
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今後の研究の推進方策 |
今後はより効率的な水素酸化触媒システムの開発を行うとともに、MnやFeで構成される高原子価金属多核構造の合成を行う。アルキルアンモニウム塩やホスホニウム塩として単離する必要があると考えているため、抽出・分液・濃縮などにより有機溶媒に可溶な塩へのカチオン交換を行う。また、シアノバクテリアから疎水的な空間を有するタンパク質の単離と精製を行い、金属多核構造合成の反応場として利用することも検討する。合成した構造体を単結晶X線構造解析、NMR、ESI-MS、IR、元素分析などを用いて構造解析を行い、UV-visやCVによって酸化還元特性を分析する。
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