研究課題/領域番号 |
18J00191
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
湊 拓生 九州大学, 工学研究院, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | ポリオキソメタレート / ヒドロゲナーゼ / 水素酸化 / 金属タンパク質 / 熱安定性 / シアノバクテリア |
研究実績の概要 |
今年度は、前年度までに見出したヒドロゲナーゼモデル錯体とポリオキソメタレートを用いた高活性水素酸化システムの再利用実験を行なったほか、金属多核構造構築のためナノスケールの反応場を有するタンパク質の単離とキャラクタリゼーションを行った。 12量体の球状タンパク質であるDps(DNA-binding protein from starved cells)は、細胞内で活性酸素を無毒化しDNAを保護する役割を担っていることから様々な種類の微生物から見つかっている。Dpsはタンパク質内で直径5 nm程度の酸化鉄クラスターを形成することからDps内部は金属多核構造を構築するためのサイズが規定された反応場として利用できると考えられる。しかし、これまでに単離されてきたDpsは熱安定性が低く、高温での金属多核構造水熱合成反応を行うためには90℃以上の温度に耐えられるようなDpsを見つけ出す必要があった。そこで当研究室により発見された好熱菌Thermoleptolyngbya sp. O-77 (Tl.O-77)から耐熱性Dpsを単離することにした。細胞の培養、破砕、遠心により可溶性画分を得たのち、4種類のカラムを用いてDpsを精製した。ゲノム解析の結果Tl.O-77は4種類のDps遺伝子を有しており、単離したDpsはISD-MALDI-TOF mass測定より4種類のうち1つが発現したTlDps1であることを同定した。またPAGEより高い純度でTlDps1を単離できたことが明らかとなった。TlDps1の熱安定性を調べるためCD測定を行なったところ、pH 2の条件において95℃まで昇温しても変性中点が観測されなかった。TlDps1の結晶化と構造解析を行なったところ、TlDps1のタンパク質表面にはこれまでに観測されていなかった2種類の新しい金属配位サイトが存在することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は前年度までにヒドロゲナーゼモデル錯体とポリオキソメタレートを組み合わせることにより高い水素酸化活性を有する新規触媒システムの構築に成功している。今年度はこのシステムが繰り返し利用可能であることを見出し、活性中心の精密合成だけでなく電子伝達部位の設計も高活性触媒の構築に重要であるという知見を得た。これらの結果は英国王立化学会の速報誌RSC Advancesに受理された。また、申請者は高原子価金属多核構造の合成と構造変換のために、ナノスケールの反応場を有している中空球状タンパク質Dpsを好熱菌から単離してキャラクタリゼーションを行った。シアノバクテリアThermoleptolyngbya sp. O-77から単離したTlDps1はこれまで知られているDpsの中で最も高い熱安定性を有していることを見出し、高温でも金属多核構造合成のプラットフォームとして利用可能であることが示唆された。さらに単結晶X線構造解析より、TlDps1のタンパク質表面にこれまで知られていなかった特異な金属配位サイトがあることを明らかにし、生物学的見地からも意義のある発見をすることができた。これらの結果は欧州生化学連合の速報誌FEBS Open Bioに受理された。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はより効率的な水素酸化触媒システムの開発を行うとともに、単離したTlDps1を用いた金属多核構造の構築を行う。合成した構造体を単結晶X線構造解析、NMR、ESI-MS、IR、元素分析などを用いて構造解析を行い、UV-visやCVによって酸化還元特性を分析する。さらに構成元素に応じた種々の触媒反応を検討して高活性触媒の開発を行う。
|