研究課題/領域番号 |
18J00211
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小山 彰彦 熊本大学, 大学院先端科学研究部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 塩性湿地 / 底生生物 / 絶滅危惧種 / 生物多様性保全 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,塩性湿地の自然度が高い九州を対象に,塩性湿地における種多様性の健全性評価手法を確立させ,効果的な保全・再生技術を構築することである.本研究を達成するためには,(1)現在の生物相の把握を行い,(2)生物分布モデルを構築し,潜在的な生物相を類推した後,(3)現在と潜在的な生物相を比較することで劣化の程度を把握する.最終的に,塩性湿地生態系の劣化状況と環境との関係を解析することで,劣化の要因を推定する.研究2年目に該当する本年度は,特に,昨年度実施した(1)の調査の充実化を主な目的として研究を展開した.加えて,(4)塩性湿地の微環境構造と生物との関係も調査した. (1)現在の生物相の把握について,対象生物は主に塩性湿地に生息する甲殻類(カニ類),腹足網類(巻貝類),および魚類(ハゼ類)の37種とした.カニ類とハゼ類については,初年度に十分な分布データが集積できたため,本年度は貝類を主に対象として野外調査と文献収集を実施した.結果約100河川で巻貝類の分布を集積することができた.ただし,巻貝類は小型な種が多いため,河川によっては取りこぼした可能性があることを踏まえて,それらの河川については次年度に再調査を行う予定である.データの集積後は,(2),(3)の実施を予定している. 本課題では九州を主な調査地としたが,(4)の達成を目的として,瀬戸内海流入河川においてカニ類の群集解析を実施した.この解析結果から,汽水域の塩性湿地は,カニ類にとって底質の粒度によって2つの生息地に細分化されていることが明らかとなった.したがって,底質の粒度の多様性を維持することが塩性湿地生態系の維持に不可欠であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度と合わせて約160河川の生物相データを集積することができた.巻貝類についてはまだ補足的に調査を行う予定であるが,予定していたデータはおおむね集積できたと判断される.また,生物分布モデルの構築についは本年度は実施しなかったが,前述した通り,データはおおむね集積できたため,最終年度に解析を行うのみである.他方で,集積したデータから,希少カニ類の重要生河川の特徴の1つとして,塩性湿地が現存していることが示唆され,本成果は国際誌に受理された.また,来年度の予定であった塩性湿地の微環境と生物相の関係に関する研究を実施し,得られた成果は国際誌に掲載された.これらの点から,本課題の進捗状況としては順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の予定として,(1)に関して,補足的な調査を行う予定である.ただし,補足調査は野外に出向くため,国内における情勢を鑑みて行う.当初の調査予定では,生物の活性が高い春季から秋季に野外調査を実施する予定であったが,場合によっては冬季にも調査を行い,分布情報の集積を試みる. (2)の達成に向けて,地理情報システムから河口付近の人為的影響を定性的に把握・あるいは数値化し,(3)の達成を目的とした解析を行う予定である.得られた成果は国際誌への投稿を予定している. 加えて,(4)は本年度に概ね達成できたが,さらにデータを充実させて,対象種の微生息環境の定量化を考えている.カニ類と巻貝類の種多様性の高い河川を対象として,底質の粒度や塩分などの物理科化学環境を現地調査から集積し,それらの関係性を解析する予定である.ただし,本研究も野外に赴くことになるため,国内における情勢を鑑みて行う.
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