今年度では希土類錯体のトリボルミネセンス測定と単一分子分光を試みた。 トリボルミネセンス測定には蛍光顕微鏡と原子間力顕微鏡像を組み合わせた装置を用い、トリボルミネセンスが報告されているEu錯体を測定試料とした。トリボルミネセンス測定を可能にするためには石英基板上にマイクロメートルサイズの単結晶を作成する必要があり、前年度では基板上で作成する方法を検討してきたが成功しなかった。そこで、今年度では貧溶媒を用いて極めて低速で再結晶を行い、数十~数百マイクロメートルサイズ(ルーペで目視できる大きさ)の結晶を作成し、それを洗浄した上で基盤に滴下した。その結果、蛍光顕微鏡で数マイクロメートルサイズの結晶も確認されいた。さらに、マイクロ結晶の発光スペクトルはバルクのものと一致しており、目的の試料であることを確認した。しかし、トリボルミネセンス測定では、結晶の粉砕が出来たもの、発光は観測されなかった。 希土類錯体の単一分子分光も試みた。当初予定していた錯体は条件が悪かったため、急遽別のEu錯体に変更した。一部、単一と思われる発光が観測された。今後は、単一であることを明確に実証することと、物性を測定することを目的とする。 また、Tb錯体についても同様の測定を行う予定であったが、Tb錯体はEu錯体と異なり「逆エネルギー移動」が進行し、発光効率が低下する。ここで、希土類錯体において通常用いられてきた発光効率の速度定数表記の式において、「逆エネルギー移動」が進行する場合でも記述が正しいかどうかを理論的に検討した。その結果、発光効率の式は適応できない事が初めて明らかになった。この成果は学術論文として報告した。さらに、この成果に応じて光音響分光による発光効率測定の妥当性も示唆され、その装置の組み立ても完了した。
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