銀河系矮小銀河は暗黒物質が支配的な恒星系であるため、銀河を構成する星々は暗黒物質の重力ポテンシャルに従って運動している。よって、矮小銀河の恒星の動力学解析から暗黒物質分布を調べることができる。この分布は暗黒物質理論によってその振る舞いが異なることが知られている。つまり矮小銀河動力学解析から暗黒物質理論に対して、宇宙物理学的側面から制限を与えることが可能である。このような背景から本研究で注目したのが自己相互作用する暗黒物質(SIDM)理論である。SIDM理論は暗黒物質粒子同士の相互作用の強さによって、暗黒物質ハローの中心部構造が変わると予言されている。 本研究では、非常に暗く小さな矮小銀河(ultra-faint dwarf; UFD)に焦点をあて、その動力学解析から暗黒物質分布を制限することで、SIDM理論の相互作用の強さを調べた。その結果、相互作用の強さが先行研究で得られていた値よりも一桁以上小さいことがわかった。これはSIDM理論に対して最も強い観測的制限である。また、得られた制限の値は、現在のSIDM理論では説明できないほど小さく、この理論の問題点を指摘することができた。 2023年から観測が開始されるすばる広視野多天体分光器(PFS)では、銀河系矮小銀河の観測がメインサイエンスの1つとなっている。本研究ではPFS観測開始に向け、模擬データを用いた矮小銀河暗黒物質分布の決定精度について詳細な研究を行っている。カリフォルニア工科大学とジョンズ・ホプキンス大学の共同研究者の協力の下、コンタミネーションや観測的不定性を含めたより現実的な模擬データの作成に成功した。現在このデータを用いた詳細な動力学解析を行っており、PFS1視野の観測では暗黒物質分布を制限することは難しいことがわかった。更に解析を進め、少なくとも何視野以上必要なのか、その定量的評価を継続して行う。
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