研究課題/領域番号 |
18J00300
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
岡崎 友輔 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 微生物生態学 / 琵琶湖 / メタゲノム / メタトランスクリプトーム / PacBio |
研究実績の概要 |
昨年度の5月より継続していた琵琶湖における月例の調査を4月に完了し、計画通り、琵琶湖沖より12カ月・2水深にわたってメタゲノム・メタトランスクリプトームサンプルを採集した。今年度は得られたサンプルからのDNA/RNA同時抽出手法を新たに開発し、抽出したDNAのメタゲノムシーケンスを行った。シーケンス結果のアセンブリ・ビニング解析の結果、これまでに琵琶湖沖に生息する262系統の細菌に由来するのべ2671個の細菌ドラフトゲノムが得られた。RNAサンプルに関しては、次年度のシーケンス解析に向けて、メタトランスクリプトームのシーケンスライブラリ作成の予備実験を行った。 上記と並行して、昨年度までに国内9、欧州2の大水深淡水湖の沖合にて鉛直的に採集した表水層及び深水層の細菌サンプルを対象とし、その系統内多様性や系統地理的なパターンを明らかにすることを目的に、16S rRNA遺伝子及び隣接するITS領域の計2000bp程度をターゲットにしたロングリードアンプリコンシーケンスを実施した。PacBioシーケンサーを用いて高品質なCircular consensus sequence (CCS)を得ることにより、1塩基解像度での多様性解析を実現した。その結果、複数の細菌系統において日本と欧州の間で明確な遺伝的隔離が見られた一方で、国内の湖では地理的な距離に応じた系統内多様性パターンが複数系統で共通して見られ、その多様化の程度は系統によって異なっていた。これらの結果は従来の16S rRNA遺伝子を対象とした解析では検出できなかった湖内・湖間の細菌の系統内の遺伝的な多様性を明らかにし、世界中に共通して生息する淡水産細菌系統群の進化・系統地理的な背景に迫る成果である。本成果は論文化がほぼ完了し、次年度初頭の投稿に向け準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はこれまでに全国の湖で採集した微生物サンプルのシーケンス解析を主に行った。特筆すべきは、昨年度より月例で継続していた琵琶湖サンプルの採集・分析が計画通りに進展した点である。この調査では独自開発の大量採水システムを用いて、琵琶湖沖の表水層と深水層の2水深において、1年(12カ月)にわたって真核微生物・原核微生物・ウイルスの3画分のDNA・RNAサンプルを現場で速やかに濾過・瞬間凍結保存し、他に類を見ない大規模な湖産微生物環境ゲノム試料の収集を実現した。加えて、得られたサンプルからDNAとRNAを効率的に同時抽出する手法を開発し、細菌サンプルに関してはすでに全サンプルの抽出が完了、うちDNAサンプルについてはすでにシーケンス解析まで完了し、ゲノムアセンブリ等の解析も進んでいる。この点に関しては当初の計画以上の進展があったと言える。一方、RNAサンプルについては、シーケンスライブラリの作成に必要な条件検討に想定以上に時間を要し、解析は次年度にずれ込む予定である。これらの取り組みと並行し、昨年度までの研究および共同研究の成果として、今年度は3報(主著1報、共著2報)の論文発表のほか、招待講演を含む国内外の学会での成果発表を行った。以上を踏まえ、今年度の研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度となる次年度は、今年度までに採集したサンプルのシーケンス及び得られたデータの解析を主に実施する。DNAサンプルについてはシーケンス解析まで完了しており、今年度はゲノムアセンブリやアノテーション等のサーバー上での解析作業を中心に実施する。RNAサンプルについては、抽出までは完了しているものの、シーケンスライブラリの作成における予備実験に時間を要している。次年度は引き続き条件検討を進め、シーケンス解析を行うとともに、得られたデータの解析を進める。並行して、初年度より継続している主要な細菌系統の単離培養の試みを引き続き実施する。これらの成果をもとに今年度中に論文執筆に着手する。
|