現存する国内外のほとんど全ての気候モデルにおいて、降雨・降雪は診断的に取り扱われている。この手法では、診断された降水はモデル内の各時間ステップで全て地表降水として落下させるため、時間ステップをまたいだメモリを持たないことになる。降水の診断的な取り扱いは、時空間解像度の粗い気候モデルにおいては計算コストの節約のために標準的な手法となっているものの、降水強度を過小評価(降水頻度を過大評価)してしまうバイアスや、エアロゾルによる降水抑制の効果を過大に表現してしまうなど、気候予測に対する不確実性をもたらす要因の一つとなっている。 このような、気候モデルコミュニティにおける共通バイアスの改善を目標とし、降雨・降雪を予報変数として取り扱う2モーメント予報型降水スキームを開発した。また、新たに予報変数として導入した降雨・降雪粒子による放射効果についても陽に考慮しており、放射ルーチンとの結合を行った。雲氷については六角柱、降雪については樹枝状結晶を仮定している。 開発した新しい雲・降水スキームのパフォーマンスを評価するため、複数の衛星観測データを用いて検証した。その結果、総氷水量(雲氷・降雪の総和)について顕著な改善が見られた。従来の診断型スキームでは降雪の寄与を見逃していた分、観測と比較し大幅に過小評価していた一方、予報型スキームでは降雪を複数時間ステップにまたがって大気中に保持することができるようになったため、衛星観測によるリトリーバルに近づく結果が得られた。また、新たに導入した雪の放射効果についても定量的に評価を行った。降雪の放射効果を考慮しない場合、正味の放射冷却を強く表現し対流を強める方向にはたらくことが明らかとなった。これは、循環場を介して降水特性にも影響を及ぼすことを示唆する結果であり、降雪の放射効果を考慮することの重要性を強調する結果である。
|