小腸上皮細胞のうち分化した機能細胞は、吸収上皮細胞、杯細胞、パネート細胞、内分泌細胞という4種類の主要な細胞と、刷子細胞、M細胞といった少数細胞に分類される。中でも、刷子細胞は小腸上皮細胞のうちわずか0.4%しか存在しておらず、その機能は殆ど明らかになっていなかった。しかし近年、刷子細胞が寄生蠕虫類などに対する免疫防御機構に関与することが立て続けに報告され、その機能に注目が集まってきた。一方で、当研究グループでは刷子細胞が完全に消失する、転写因子Skn-1a欠損マウスの解析から、刷子細胞からの食シグナルがカテコールアミンの分泌抑制を介してエネルギー消費量を調節することを明らかにした。さらに、その後のRNA-Seq法及び免疫組織学的手法を用いた解析から、刷子細胞の頂端部に局在して発現するGPCR“オーファン受容体X”を発見した。この受容体Xの遺伝子欠損マウスでは寄生虫感染に対する免疫防御能の低下が認められなかったことから、受容体Xは刷子細胞において免疫以外の機能に寄与することが示唆された。 そこで、本研究では受容体Xの遺伝子欠損マウスの表現型解析及びリガンド探索を行い、受容体Xの新規栄養素センサーとしての可能性を検証することを目的とする。 2019年度は、X遺伝子欠損マウスのエネルギー代謝に関する表現型を解析するため、高脂肪食飼育時の体重や臓器重量変化を野生型マウスと比較した。また、培養細胞発現系を用いて化合物ライブラリや微生物由来サンプルを対象としたリガンドスクリーニングを行った。さらに、小腸刷子細胞におけるin vivoカルシウムイメージング系構築のための検討を行った。
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