高分子材料は産業的に広く利用されているが、材料の微細化や複雑化に伴いその物性発現メカニズムの微視的な解析が求められている。しかしながら、高分子材料内部を原子分解能で観察できる手法が欠如していることから、物性の起源である高分子鎖の形態や挙動の解明は大きく遅れている。このような背景から、本研究では原子分解能電子顕微鏡を用いて高分子の単一分子鎖の形態を直接観察する手法を確立すること、さらには加熱や応力印加下における動的挙動を解明することを目的に据えた。1年目である本年度は、まず高分子鎖の原子分解能直接観察手法を確立することを目標とした。 まず、高分子材料は導電性が小さくかつ軽元素から構成されていることから電子線に弱く、また像コントラストもつきにくいため電子顕微鏡による高分解能観察が困難という問題を抱えている。そこで、像コントラストの増強、および試料への導電性の付与、の2点を考慮し試料作製を行った。前者の対策としては、重元素であるヨウ素原子で各モノマー単位を修飾したポリスチレンpoly(4-iodostyrene)を観察対象とし、重元素の位置を選択的に明るく観察することができる環状暗視野走査透過型電子顕微鏡法(ADF-STEM)を使用した。後者については、様々な導電性支持膜について比較・検討を行い、結果として高配向性グラファイトから剥離したグラフェンが不純物が少なく最適であることがわかった。さらにこの支持膜上にpoly(4-iodostyrene)を微量に散布し、原子分解能ADF-STEMで観察することで、poly(4-iodostyrene)に含まれるヨウ素原子の分布を原子空間分解能で可視化することに成功した。また、そのヨウ素原子分布から、高分子鎖の形態を把握できることも確かめられた。以上から、本年度の目標である「高分子鎖の原子分解能直接観察手法の確立」は大方達成できたと言える。
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