本研究では、βバレル膜タンパク質をミトコンドリア外膜へ挿入するSAM複合体タンパク質の精密構造を決定し、そのメカニズムの解明を目的としている。SAM複合体はβバレルタンパク質Sam50と可溶性タンパク質Sam35/Sam37によって構成される。しかし、SAM複合体がどのように形成されており、どのように基質タンパク質をβバレルに整形するのかは不明である。そこで我々は、SAM複合体のクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析と、構造に基づいたin vitro機能解析により、SAM複合体によるタンパク質整形メカニズムの解明に向けて取り組んできた。クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析では、SAM複合体の構造を分解能2.6オングストロームで決定することに成功した。SAM複合体のクライオ構造では、Sam50がダイマーを形成し、サイトゾル側からSam35/Sam37がSam50と結合していた。in vitro機能解析を行なった結果、基質βバレルタンパク質は、Sam37に結合したSam50と入れ替わるようにしてSam37と結合し、Sam35に結合したSam50が基質βバレルタンパク質を膜へ挿入することを明らかにした。以上の結果から、基質タンパク質がSAM複合体に結合すると、SAM複合体のSam50ダイマーのうち、Sam37と結合するSam50と入れ替わり、基質タンパク質の整形が進むという、βバレルスイッチモデルを提唱するに至った。これらの研究成果は、Natureに掲載された。当初、クライオ電子顕微鏡の使用を予定していたが、論文作成などにより不要となったため、未使用金が生じた。
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