研究課題/領域番号 |
18J00379
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中島 秀斗 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 等質開凸錐 / 等質凸領域 / 概均質ベクトル空間 / 可解Lie群 / 概均質ゼータ関数 |
研究実績の概要 |
報告者はこれまで等質錐の基本相対不変公式の明示的公式やそれを用いた対称錐の特徴付けなど、等質錐の代数的性質を詳しく研究してきた。本年度はまず、等質開凸錐のQ構造について詳しく考察し、等質開凸錐がQ構造を持つための必要十分条件をウェイト空間の基底を用いた形で与えた。これは、3月に東北数学雑誌に受理された、等質開凸錐に付随する多変数ゼータ関数の関数等式に関する論文「Functional equations of zeta functions associated with homogeneous cones」で発表した。また、この論文の発展として、その多変数ゼータ関数が完備化できるための一つの十分条件を与えた。ここで注目すべき点は、一般に等質開凸錐に作用する群は可解リー群であり、簡約群ではないことである。この研究成果はすでに学術論文(2)「Completion of zeta functions associated with a certain class of homogeneous cones」としてまとめており、投稿先を吟味している段階である。さらに、基本相対不変式の明示的公式の代数的な証明を与えた。以前は等質開凸錐上のリース超関数の緻密な解析を用いた証明であったが、これによってより一般の係数体上でも、実数体と同様の考察が可能となった。一方で、フランス・アンジェ大学のP. Graczyk氏のもとに3ヶ月滞在し、等質開凸錐と関連するランダム行列の固有値分布問題に関して共同研究を行った。そこで Letac--Massamによる「分裂可能グラフに関するWishart行列の固有値 (The eigenvalues of a Wishart matrix for a decomposable graph)」という未発表の研究ノートの結果を一般化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、等質開凸錐がQ構造を持つための必要十分条件をウェイト空間の基底を用いた形で与え、さらにその多変数ゼータ関数が完備化できるための一つの十分条件を得た。特に後者については、完備化可能な概均質空間に付随する多変数ゼータ関数を系統的に与えるものであり、これまではそのような考察はなされていなかった。交付申請書に記載した等質開凸錐に付随するゼータ関数の解析接続可能性については、完備化の問題を優先したために進展はしていないが、新たな現象を発見できたことを評価し、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は等質開凸錐に付随するゼータ関数の解析接続性に関する問題、その完備化に関する問題、および等質開凸錐と関連するランダム行列の固有値分布問題について、研究を進めていく。また、学会発表4を行った際に、東京大学の田中雄一郎氏と等質錐上の微分作用素に関する議論を行ない、報告者の以前の結果(既約な等質錐の基本相対不変式のラプラス変換が多項式の逆数になるのは対称錐に限る)とDuflo予想(既約ユニタリ表現の有限重複度性とある微分作用素環の多項式性との関係)との類似性を指摘された。等質錐に単純推移的に作用する分裂可解リー群は、可解リー群の中においてルート空間分解が可能であるなど非常に良い性質を持ったものであり、近年の伊師英之氏を始めとした野村隆昭氏や報告者による研究を活かして、具体的な計算を与えることは、より一般の可解リー群に対しての示唆に富んだ結果が得られることが期待される。次年度はこの方向への研究も行いたい。
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