研究課題/領域番号 |
18J00388
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松浦 菜美子 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | マラルメ / 詩 / サロメ / 神話 / 作劇術 / 腹心役 / 乳母 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀フランスの詩人ステファヌ・マラルメにおける非個人性の探求と演劇に対する関心の結びつきを、近代における神話の再創造・再提示という高次の問題意識のあらわれとして捉え、マラルメの詩的実践の様態と意義を明らかにすることを目指している。研究開始1年目の本年度は、主に二つの作業を実施した。 一つ目は、マラルメの舞台芸術論や演劇に材を取った散文詩を、マラルメが「典型」と呼ぶ、普遍性を担う非個人的な人物形象の提示様態の素描として読み解くことである。これは本研究の準備作業にあたり、先行研究の整理も同時に行った。 二つ目は、『福音書』の伝承に由来し、西欧美術・文学において中世以降様々に表象されたサロメ神話を題材としながらも、マラルメが自由に改変し創造した「エロディアード」作品群の分析である。具体的には、生前に発表された対話体の「舞台」(1871年)のほか、未完に終わった神秘劇(聖史劇)『エロディアードの婚礼』の草稿群を対象に、マラルメが参照しえた様々なサロメ像や19世紀末フランスで流行を見る「宿命の女(ファム・ファタル)」としてのサロメ像との比較対照を試みた。 当初は、主人公エロディアードの人物造形や作品内での演出の仕方に注目していたが、徐々に、エロディアードの侍女であり、古典劇では「腹心役」に相当する乳母という登場人物の役割や機能が、エロディアード自体の人物造形やその見せ方と深く関連していることに気づいた。作品中の乳母の役割や機能について分析結果を論文としてまとめた(「マラルメ・シンポジウム2018」の論集に投稿している)が、このことによってマラルメの作劇術の一端が垣間見えたのではないかと考えている。これ以外にも、乳母の台詞と他のマラルメ作品との類似性など、マラルメの文体変化に関わる要素も興味深く、研究年度2年目においても、1年目に得られた成果を引き続き公表していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、予定していた上記二つの研究作業を通して、「エロディアード」作品群におけるマラルメの作劇術にひかりをあてることができ、本研究の仮説にとって意味のある結果が得られた。次年度の分析対象に計画どおり着手できる状態にあるため、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始1年目は、資料収集やその整理・分析・理解を大事にしたのだが、想定していたよりもその一連の作業に時間がかかり、海外の研究者との研究交流や自身の研究成果の公表を十分に行うことができなかった。資料収集や分析の基準・焦点にぶれがあったことが反省点としてあげられる。そのため、今年度は資料収集や分析の前にこれまでよりも戦略を練り、的を絞ることで、1年目に十分にできなかった海外の研究者との研究交流や成果の公表により多くの力を注ぎたい。
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