研究課題/領域番号 |
18J00402
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
西田 彰一 京都産業大学, 法学部, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 政治教育 / 水野錬太郎 / 政治教育協会 / 守屋栄夫 / 誓の御柱 |
研究実績の概要 |
本年度の主な取り組みは、①後期課程の研究対象であった筧克彦と〈政治教育〉の関係性の分析、②普通選挙法成立後の内務官僚の〈政治教育〉への関わりの解明、③政治教育協会の果たした役割の探究の3点である。 まず①では、五箇条の御誓文記念碑「誓の御柱」建設運動に注目した。筧は、デモクラシーの成果を認めつつも、日本の国民は「神ながらの道」の精神を有し、個々の対立を超えて国家の下に精神的統一を果たすことができるという説を唱えていた。その理念の普及方法として用いられたのが、教え子で滋賀県警察部長であった水上七郎と共に取り組んだ「誓の御柱」の建設運動である。「誓の御柱」は水上の協力の下、1926年に琵琶湖内の多景島に最初の一基が建設され、その後〈政治教育〉に取り組む地域の教育者を巻き込む形で、愛知県や秋田県、山形県などでも建設運動が展開された。 次に②では、内務官僚であり、のちに衆議院議員となった守屋栄夫の事跡に注目して取り組んだ。守屋は東京帝国大学で筧克彦の下で学び、入省後、府県課長、朝鮮総督府秘書課長、社会局社会部長を歴任、水野錬太郎と近しい関係となった人物である。守屋は普選法成立前後の時期に内務省社会局社会部長として活動し、欧米との国際競争を意識しつつ、段階を踏ませて、上から国民を政治的に「教育」しようとした人物であった。 最後に③では、政治教育協会の創設者であり、内務省系の大物政治家として知られる水野錬太郎の果たした役割に注目した。1926年に創設された政治教育協会は、毎月著名な学者や政治家、官僚を招いて講演を実施、さらにはこれらの講演をまとめた『政治教育講座』(全5巻)及び『政治教育ライブラリー』(全9巻)を出版している。この活動で水野が最も重視したのは、国民に普通選挙の実施を前提としつつ、具体的な政治知識を身につけさせ、堅実なる政治常識と国民信念を体得させることであった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初は前期に政治家の議論を分析し、後期に水野錬太郎ら官僚を扱い、翌2019年度に筧克彦や美濃部達吉、上杉慎吉や吉野作造ら戦前を代表する法学者、政治学者を扱うつもりであった。だが、先に博士論文で取り上げた筧克彦から研究を掘り下げたほうが、現在の研究テーマとの連続性を考えるうえでも研究を進めやすいと判断し、先に筧とその周辺から研究を深めることにした。本年度は、「誓の御柱」建設運動を通した筧及び水上の〈政治教育〉活動や、筧の弟子にあたる守屋栄夫の〈政治教育〉への関わり、さらには守屋の上司にあたる水野錬太郎の〈政治教育〉思想の分析を試みた。 本年度は国会図書館、国文学研究資料館、学習院大学友邦文庫、吉野作造記念館で調査を実施し、筧や守屋、水野の研究を行った。その結果、「守屋栄夫小伝――内務省での経歴を中心に」『日本思想史研究会会報』第35号と「「誓の御柱」建設運動とその広がりについて」『日本研究』第58号の二本を査読付きの雑誌に掲載することができた。また水野錬太郎の研究も、日本思想史学会大会(神戸大学)において、「『政治教育講座』における水野錬太郎の政治思想」として報告の機会をいただくことができた。この水野についての報告も、2019年度中に査読つき雑誌に論文として投稿する予定であり、そのための準備をすすめている。 また、上記に取り上げた論文、学会報告のほかにも、筧の満洲における活動や、同じ東京帝大法学部教授である南原繁との比較検討を口頭発表で取り上げた。さらには、戦前の〈政治教育〉が戦後どのように市民的展開を遂げたのかに注目するため、志賀直哉と奈良の弟子たち(上司海雲、池田小菊)の戦後の活動にも触れた。いずれも2019年度内に論文化する予定である。さらに、筧克彦の研究については現在単著の刊行準備を進めており、2019年度内の出版を目指している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、2019年度に普選法成立後の①新聞、②政治家、③学者の〈政治教育〉に関する議論の分析・研究を進め、2020年度に④浜口雄幸内閣の選挙革正運動と⑤守屋栄夫が主催した大日本昭和聯盟の研究を行い、これ等の成果をとりまとめ出版を目指す。 まず2019年度は、具体的には、①普選壇建設運動をはじめとする名古屋新聞社社長小山松寿の〈政治教育〉運動、②後藤新平、犬養毅ら政治家の〈政治教育〉に関する議論の比較検討、③美濃部達吉、上杉慎吉、吉野作造ら学者の〈政治教育〉論の検討である。①については、すでに名古屋市立鶴舞中央図書館での調査を実施し、執筆をすすめている。19年度中に論文として公表する計画である。②はまだ調査継続中であるが、岩手県の後藤新平記念館や国会図書館での後藤新平の調査を引き続き行いつつ、岡山県の犬養木堂記念館も訪問、史料調査を実施し、19年度内に論文を完成させたい。③はすでに吉野に関しては吉野作造記念館で調査を実施するなど先行して調査を進めつつあるが、美濃部や上杉に関しても今後兵庫県の美濃部達吉文庫や石川県の金沢大学資料館などで調査を実施したい。そのうえで、19年度内に論文として投稿を目指す予定である。 次に2020年度の研究方針である。20年度は18年度、19年度の成果を活かしつつ、④浜口雄幸内閣の選挙革正運動と⑤守屋栄夫が主催した大日本昭和聯盟の研究を行い、著作化を目指す方針である。④は具体的には憲政資料室及び国立公文書館アジア歴史資料センターで選挙革正運動に関する史料を調査する。また、『斯民』などの雑誌や選挙革正運動に関する当時の書物を蒐集し、研究する。そして、その成果を学術誌に投稿する。次に⑤の守屋栄夫の大日本昭和聯盟である。これについては、守屋の著作や雑誌『あかるい政治』(国文学研究資料館蔵)の分析を通して、論文として作成するつもりである。
|