研究課題/領域番号 |
18J00402
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
西田 彰一 京都産業大学, 法学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 国体論 / 筧克彦 / 守屋栄夫 / 普選壇 / 小山松寿 / 政治教育論 / 五か条の御誓文 / 普通選挙運動 |
研究実績の概要 |
本年度の主な取り組みは、①博士後期課程の研究対象であった筧克彦に関する著作の執筆、②普通選挙法成立後の普選の普及運動についての研究、③教育学者と連携した教育実践への取り組みである。 まず①では、筧克彦に関するこれまでの研究をまとめ、『躍動する「国体」――筧克彦の思想と活動』として、2020年2月にミネルヴァ書房から刊行した。本書ではこれまで注目されてこなかった、筧の思想形成過程や活動の実態に光を当てた。また、筧は戦前の政治教育の普及に深く携わった二荒芳徳(貴族院議員)や守屋栄夫(内務官僚、衆議院議員)の師でもある。そうした彼らとの関わりや、師弟関係も本書では言及した。 次に②では、普選壇建設運動を題材に、名古屋新聞社(現在の中日新聞)の創設者である小山松寿(当時衆議院議員、のちに衆議院議長就任)の政治教育運動を中心に研究した。この普選壇建設運動は、名古屋新聞の宣伝と議員としての小山の支持基盤の確立という側面が強いが、普通選挙を語り、その理念を提唱する際に、復古的な形で五か条の御誓文に注目していたという点で注目すべき運動である。なお、本論文はすでに入稿を済ませており、20年度刊行の論文集に収録予定である。 最後に③では、教育学者で友人の蒲生諒太氏(立命館大学教育推進開発機構嘱託講師)と協同し、中高生の探究学習のために、新しい教育実践に取り組んだ。この学習の狙いは、これらの学習を通して、中高生に歴史的研究における実証作業を追体験させることにあったが、大学のフィールドワーク講義など、ほかの教育実践にも応用することも想定できる。また、実際に探究学習の共同研究に関わることで、報告者自身も中高生の教育に対する理解が深まった。 なお、当初3月に東京出張を予定していたが、新型コロナウイルスの流行拡大により中止となり、未使用金が発生した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進捗している。本年度は昨年度に掘り下げた筧克彦とその周辺人物の研究をもとに、著作の出版を目指し、本年度内に論文3本と学術書1冊(西田彰一「南原繁と筧克彦」南原繁研究会編『南原繁と憲法改定問題』〔その2〕〔横濱大氣堂、2019年6月〕、同「筧克彦の思想と活動――国体論との関わりに注目して――」藤田大誠編『国家神道と国体論 宗教とナショナリズムの学際的研究』〔弘文堂、2019年9月〕、同「筧克彦の神道理論の形成過程」『日本思想史学』第51号(2019年9月)、同『躍動する国体――筧克彦の思想と活動』〔ミネルヴァ書房、2020年2月〕)を刊行することができた。また、筧の研究の進展を受けて、美濃部達吉や上杉慎吉など当時の法学者とどのような関係性にあったのかについての理解も深まった。 これに加えて本年度は、普選壇建設運動の研究にも取り組み、普通選挙法成立後に、普選の理念を当時中京圏の二大新聞の一角である名古屋新聞が、どのように普及させようとしたのかの研究に取り組むことができた。また、教育学者の友人と組んで、自身も教育の実践に取り組み、論文2本(蒲生諒太、西田彰一「古写真を利用した探究的な学習プログラム:道頓堀をフィールドとした歴史・地理教育の試行記録」『同志社大学教職課程年報』第3号〔2020年2月〕、西田彰一、蒲生諒太「歴史教育における探究的な学習プログラムの開発―「観察」と「論証」に焦点を当てた理論的検討と実践の紹介―」『立命館大学教職教育研究』第7号〔2019年3月〕)を刊行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は、普選成立後の①学者及び②政治家の分析・研究を進め、さらに③浜口雄幸内閣の選挙革正運動と④内務官僚から衆議院議員へとなった守屋栄夫が主催した大日本昭和連盟の研究を行い、現在の研究課題の著作化を目指す方針である。 具体的には、①で上杉慎吉、吉野作造ら学者の〈政治教育〉論を検討し、②では後藤新平、犬養毅、水野錬太郎ら政治家の〈政治教育〉に関する議論の比較検討を実施する予定である。すでに犬養毅以外の現地調査は済んでおり、また、新型コロナの収束を見計らって、追加の調査も検討している。③は具体的には国会図書館憲政資料室及び国立公文書館アジア歴史資料センターで選挙革正運動に関する史料調査を想定し、④は国文学研究資料館にある守屋栄夫文書と吉野作造記念館の守屋関連資料の調査を予定している。新型コロナの流行が収まらなければ、現地調査を実施することが難しいのが懸念すべき点であるが、なるべくオンラインで閲覧できるデータベースなどを駆使し、調査研究に取り組みたい。また、必要な著作や史料は科研費を用いて随時購入していきたい。 さらに、先述の蒲生諒太氏との協同も本年もすすめていきたい。現在のところ、オンライン上での報告会の実施方法なども模索しており、うまく開催することができれば、新たな教育実践となることであろう。今年度は学問的にも逆風の状況が続くことが予想されるが、自身や周囲の健康に気を配りつつ、円滑に計画を遂行していきたい。
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備考 |
国際日本文化研究センターにおける文書整理と文献目録作成の成果物。
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