令和元(平成31)年度は、国外での学会発表を1件、国内での学会発表を1件行い、本年度の研究成果について2022年に1本の論文の公表が予定される。 まず昨年度の研究成果に基づき、明治時代の児童文学におけるジャンヌ・ダルクの表象について、2019年8月にストックホルムで開催された国際児童文学学会で研究発表を行った。次に昨年度の研究成果を発展させ、明治時代後半の「少女」向けの読み物におけるジャンヌ・ダルクの表象の研究を行った。明治時代20年代後半以降の児童文学におけるジャンヌの表象には、「少年」読者向けの言説と「少女」読者向けの言説とに分離する傾向がある。本年度は、「少女」読者向けの言説について、転換点として重要な宮崎湖処子「オルレアンの少女」(1895年)を中心に検討した。宮崎は「オルレアンの少女」を、それ以前に発表された他の複数の日本語の文献を参照しつつ、創作したと考えられる。宮崎がクリスチャンであり、ジャンヌの信仰心を高く評価した点、代表作『帰省』(1890年)等、故郷への郷愁の念を表現し続けた作家であった点などを背景とし、「オルレアンの少女」では、忠君愛国よりも信仰心や家族への思いに基づき行動するジャンヌ像が描かれた。「少女」読者向けのジャンヌ像の変容は、成人女性読者向けの婦人雑誌等におけるジャンヌ像の変容とも並行し、良妻賢母規範が児童文学上の表象に影響を与えた一例と考えられる。以上の研究成果を日本児童文学学会で発表し、2022年刊行予定の国際児童文学学会学会誌でも論文要旨が受理され、論文を投稿する予定である。 最後に、児童雑誌『少年』等におけるフランス関係の記事の調査、ボーモン夫人「美女と野獣」(1757年)の明治時代の翻訳受容に関する調査も行った。後者は明治時代に出版された二作品について、それぞれ、原典と思われる英語の文献が発見された。今後も引き続き研究を行いたい。
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