研究課題
本研究は脳・神経節の広域に分布する細胞集団の活動ダイナミクスの役割という観点から、学習行動を担う神経回路網の動作原理を解明する。網羅的な細胞同定が可能なヒル神経節を用い、細胞集団全体のダイナミクスが学習プロセスをどのように表現し、個々の細胞の活動がこれに如何に寄与するのかを明らかにする。対象となる学習は鋭敏化学習であり、対象となる行動は圧感覚刺激に対する反射行動である局所湾曲反射である。これまでに共同研究機関であるカリフォルニア工科大学で確立した両側膜電位イメージング法による網羅計測を利用して網羅的活動データを収集した。これに関連して、網羅的膜電位イメージング技術と連続ブロック表面透過型電子顕微鏡撮像によるコネクトームを組み合わせた生理-解剖学的コネクトーム解析を行った。これは論文としてまとめ、bioRxivに公表済みであり、海外学術誌に投稿中である。この成果は2019年の北米神経科学会と日本比較生理生化学会においても報告した。さらに、圧感覚刺激および侵害刺激を提示された際、どのニューロン群が動員されるのか定量的に調べるため、両側膜電位イメージング法で得られたデータにコヒーレンス解析を適用した網羅的マッピングによる解析を遂行した。接触・圧力・侵害刺激に対して動員されるニューロンのマッピングについて顕著な結果を得たので、これを論文として取りまとめ中である。この結果については2019年の日本動物学会、北米神経科学会、2020年の日本動物学会関東支部大会において発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
ヒルの行動としてこれまでの知見が豊富な局所湾曲反射を選び、学習形態としては簡便な鋭敏化学習に焦点を絞ったことで、集団活動ダイナミクスを担う少数のニューロン群の候補選択をより円滑に進められてきた。ただし、集団活動の数理解析方法についてはTensor Component Analysisの適用を試みているが、データの整理方法を見直したうえで再解析する必要があると判断している。なお圧感覚刺激および侵害刺激を提示した際に動員されるニューロン群のマッピングを、両側膜電位イメージングデータからコヒーレンス解析により遂行してきたが、ここで顕著な結果を得たので、この取りまとめを優先的に行っている。以上より、本研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断される。
今後は、まず集団活動の再解析結果を論文としてまとめるとともに、これまでに確立した生理-解剖コネクトームのデータベース活用、圧感覚-侵害感覚の機能的マッピングを利用することで、 学習に伴う神経集団活動の変化に寄与する候補と考えられる少数ニューロン群への細胞内刺激・抑制実験、および候補ニューロンの神経突起イメージング実験を行い、研究プロジェクト全体の総括を行う予定である。
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bioRxiv
巻: 2020.03.09 ページ: 1-25
doi.org/10.1101/2020.03.09.984013