研究課題/領域番号 |
18J00528
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
嘉祥寺谷 幸子 筑波大学, 生命環境系, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 単為結果 / 植物 / トマト / 転写因子 |
研究実績の概要 |
トマト(Solanum lycopersicum, Sl)において、受粉なしで果実が形成される『単為結果性』は重要な形質である。トマト単為結果性遺伝子として同定されているSlPAT-2は、Zink-finger homeodomain (ZHD)をコードする。ZHDは花器官で発現する植物特有の転写因子で、二量体化部位とDNA結合部位をもっている。トマトは22個のZHDをもつ。SlPAT-2はホモ二量体や他のZHDとヘテロ二量体を形成し、プロモーター部位に結合して下流の遺伝子発現を調節し、単為結果を制御すると考えられる。本研究では、SlPAT-2が単為結果性を誘導する機構を明らかにするため、SlPAT-2の遺伝子発現制御を『発現制御する遺伝子群』および『他のZHDの影響』を調べる。 SlPAT-2は若い花芽(2-3 mm)で発現が高く、雌蕊と雄蕊の両方で発現が確認されている。SlPAT-2の発現部位をより詳細に調べるため、3 mm花芽でin situ hybridizationを行ったがシグナルが検出できなかった。 SlPAT-2が発現制御する遺伝子群をChIP-seqによって調べるため、35SプロモーターでGFPを付加したSlPAT-2を発現させた植物を作出した。N末およびC末にGFPを付加したSlPAT-2 T1植物をそれぞれ4、5系統生育し、若い葉からタンパク質を抽出、GFPを検出した。しかし、現在のところシグナルが確認されていない。 他のZHDの影響を調べるため、Slpat-2の弱いアレルを用いて、SlPAT-2と同時期に発現が高い3つのZHDをそれぞれゲノム編集によって破壊した。ゲノム編集個体はその後代から、1遺伝子につき3系統の二重変異体および一重変異体の選抜を行っている。2遺伝子において二重変異体のホモ個体が得られ、そのうち1遺伝子で非常に強い単為結果性を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、in situ hybridizationによるSlPAT-2の発現部位解析、SlPAT-2のChIP-seq解析のための実験系構築、同族のZHDのゲノム編集個体作出とホモ選抜を行ってきた。 SlPAT-2の発現が低いためか、in situ hybridizationでの明確なシグナル検出ができなかった。また、ChIP-seq解析は、35Sプロモーターで(A)GFP-SlPAT-2もしくは(B)SlPAT-2-GFPを過剰発現させたT0植物を作出した。(A)4、(B)5系統のT1植物からタンパク質を抽出し、GFPのシグナルを検出したが、現在シグナルが確認できていない。一方、3つのZHD遺伝子をそれぞれ壊したゲノム編集個体はSlpat-2との二重変異体を選抜し、1つのZHDのゲノム編集系統で、Slpat-2よりも明らかに強い単為結果性を確認した。このことはSlPAT-2が他のZHDとヘテロ二量体を形成して転写活性を調節することを強く示唆するものである。 ゲノム編集では期待した結果が得られたが、in situ hybridizationおよびChIP-seqでは得ることができず、結果として研究進歩状況がやや遅れていると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、ゲノム編集個体で強い単為結果を示したZHD遺伝子に重点を置いて研究を行う。『SlPAT-2が核で他のZHDと相互作用することによって遺伝子の発現調節を行い、その結果として単為結果が誘導される』という仮説を検証するため、以下の解析を進める。 1.SlPAT-2の相補性検定のため、Slpat-2の強いアレルにネイティブプロモーターの下流にSlPAT-2を繋いだベクターを導入した形質転換トマトの単為結果性を評価する。 2.SlPAT-2および上記のZHDについて、タバコでGFP融合タンパク質を一過的に発現し、その細胞内局在を共焦点レーザー顕微鏡によって確認する。 3.Yeast Two hybrid法により、SlPAT-2とZHDの相互作用を確認する。 4.Slpat-2とzhdの二重変異体の単為結果性を評価する。また、これら二重変異体の開花時およびその前後の子房肥大の様子を組織観察によって行う。
|