研究課題/領域番号 |
18J00536
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
坪川 祐美子 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 特別研究員(PD) (40824280)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 斜方輝石 / 海洋プレート / その場観察 / 高温高圧 |
研究実績の概要 |
プレートの主要鉱物であるドライなカンラン石の強度から仮定されるプレート強度は600MPa程度と強く、地球においてプレートテクトニクスが起きていることを説明するためには、何らかの理由でプレートの強度が「弱化」している必要がある。本研究ではこのプレート強度の「弱化」を説明するために、プレートで2番目に多い斜方輝石に着目し、沈み込むプレート内の条件下における斜方輝石の変形強度を実験的に決定した。 初年度である平成30年度は、変形実験の試料となる斜方輝石多結晶体の焼結と、放射光施設(SPring-8)における単色X線を用いた、ドライ条件下における斜方輝石の応力・歪のその場測定を重点的に行った。変形実験にはD-DIA型変形装置を用いて、沈み込むプレート内の温度圧力の範囲内(1.8-4.7 GPa、1273-1473 K)で、斜方輝石の応力-歪関係を測定した。また実験後の回収試料について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた微細組織観察およびフーリエ変換型赤外分光計(FT-IR)を用いた含水量の測定を行ったほか、一部の試料から薄膜を作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)によるナノ組織観察を行った。 実験前後における試料のFT-IR分析の結果から、斜方輝石結晶中に溶存する水はほぼ完全に除去され、高温高圧下でドライ条件を維持し続けた状態で斜方輝石が変形したことを確認した。実験結果および回収試料のTEM観察から、本実験において斜方輝石の変形メカニズムは転位クリープによる変形が卓越していたと考えられる。本研究で得られたドライな斜方輝石の転位クリープによる変形強度は、プレート内の温度圧力条件下においてドライなカンラン石のものと比べ著しく低い値となることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では実験試料にカンラン石高圧相を用いる予定であったが、本研究で課題としている沈み込むプレートの強度やその挙動の評価を行う上で、カンラン石よりその強度が低いことが実験的に指摘されている斜方輝石を用いて実験を行うことがより重要であるとし、斜方輝石を実験の試料として実験に取り組んだ。初年度である平成30年度は、変形実験の試料となる斜方輝石多結晶体の焼結と、放射光施設(SPring-8)における単色X線を用いた斜方輝石の応力・歪のその場測定を重点的に行った。特に初年度は、ドライな斜方輝石の転位クリープ強度を明らかにするために、高温高圧下でも斜方輝石がドライ条件を維持したままでの実験を成功させた。その結果、ドライ条件下での斜方輝石の転位クリープ強度が明らかになり、これはプレート内の温度圧力条件下においてドライなカンラン石のものと比べ著しく低い値であることがわかった。これらの結果について、国内学会および国際シンポジウムにおいて発表を行った他、これまでの一連の成果の取りまとめを行い、平成31年度に国際論文へ投稿し発表を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、実験の回収試料についての透過型電子顕微鏡(TEM)によるナノ領域の観察・分析を重点的に行う。また、初年度に行ったドライ条件下での実験を引き続き行うとともに、含水条件下での実験に取り組むことで、高温・高圧下における水の及ぼす影響についても評価を進めていく予定である。また、初年度と次年度で得られた結果から斜方輝石の流動則についてまとめ、その結果から海洋プレートの強度を理論的に計算することで、沈み込むプレートの強度やその挙動についてより詳細な検討を行うことを目指す。前年度で得られた結果についてはとりまとめを行い、次年度中に国際論文へ投稿・発表することを予定している。
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