研究課題/領域番号 |
18J00556
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
細見 晃司 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 ワクチン・アジュバント研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 細菌性食中毒 / ワクチン / 志賀毒素 / ウエルシュ菌エンテロトキシン / カンピロバクター |
研究実績の概要 |
本研究では細菌性食中毒に対する新規の多価ワクチンの開発を目的に、まず、ウエルシュ菌エンテロトキシン(CPE)の受容体結合に関わるC末端領域(C-CPE)と腸管出血性大腸菌から産生されるベロ毒素(VT2、別名:志賀毒素Stx2)の受容体結合領域であるBサブユニット(Stx2B)の融合タンパク質のワクチンとしての有用性を評価した。その結果、融合タンパク質を免疫することで、ウエルシュ菌エンテロトキシンとベロ毒素に対する抗体が誘導されており、さらにin vitroおよびin vivoでの中和活性を確認できた。具体的には、C-CPEは本来抗原性の低い分子であるため、単独で免疫してもC-CPE特異的な免疫応答はほとんど誘導されず、CPEに対する中和抗体が産生されない。しかし、Stx2Bと融合したタンパク質(Stx2B -C-CPE)をマウスに皮下で免疫すると、C-CPE特異的な免疫応答が誘導され、中和活性をもつC-CPE特異的な血中IgG抗体が産生された。さらに、融合パートナーとして用いたベロ毒素に対するワクチンについても、毒素に対する十分な生体防御を示す抗体産生を誘導することが出来た。 次に、カンピロバクターに対するワクチン抗原候補を検索する目的で、腸管上皮細胞株を用いた感染モデルにおいてカンピロバクターの感染を防御できる抗体を選定し、本抗体が認識している分子を同定した。さらに組換えタンパク質として大腸菌に発現・精製した本分子をマウスに免疫したところ、血清中に本分子特異的な抗体産生が誘導できることを確認した。このように、カンピロバクター感染症に対するワクチン開発に向けた有効なワクチン抗原の同定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通り、ウエルシュ菌および腸管出血性大腸菌を対象に新規ワクチンをデザインし、その有効性を動物モデルで証明した。さらに、ワクチン効果が発揮される免疫学的メカニズムを解明し、この成果はワクチン開発の新たな手法を提案する研究成果であると考えている。具体的には、Stx2BはT細胞に認識されてT細胞からのサイトカイン産生を誘導できるのに対して、C-CPEはT細胞に認識されず、T細胞からサイトカインが産生されないことが明らかになった。すなわち、C-CPEはT細胞エピトープを持っていないため、C-CPEを単独で免疫してもT細胞が活性化しないためにB細胞のクラススイッチが誘導されないので、C-CPE特異的なIgG抗体が産生されなかったと考えられる。一方で融合タンパク質として免疫すると、Stx2Bからの刺激によってT細胞から産生されるサイトカインがStx2B特異的なB細胞のクラススイッチに加えて、副次的な効果としてC-CPE特異的なB細胞のクラススイッチを誘導することで、C-CPE特異的なIgG抗体が産生されたと考えられる。このように、本研究の成果は、タンパク工学の技術を用いてT細胞エピトープを付与することで、ワクチン抗原の抗原性を改良したワクチンを開発できることを示しており、ワクチン開発の新たな手法を提案する研究成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ウエルシュ菌および腸管出血性大腸菌をターゲットとしたワクチン開発においては、本研究でワクチンの有効性をマウスを用いて示したが、今後は実用化に向けて、サルやヒトでの検討が必要となると考えている。具体的にはサルにおけるワクチン抗原に対する免疫応答を検討し、感染実験等において防御効果が得られるか検討する。また、サロゲートマーカーを用いた評価などヒトでの有効性を検討する。 一方で、カンピロバクターに対するワクチン開発においては、本研究でワクチン抗原候補を同定していることから、今後は有効なワクチンのデザインと感染モデル等を用いた有効性の検証が必要となる。ワクチン候補分子をマウス等の実験動物へ免疫し、in vitroおよびin vivoで感染症に対する予防効果を検討する。
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