研究課題
TERT発現肝細胞への多段階のゲノム異常の負荷によって肝癌が発生することをin vivoおよびin vitroモデルを用いて検証し、第三世代シーケンサーを用いて解析することを本研究の目的とし、肝細胞にTERTが過剰発現するマウスモデルを作成、経過観察した。今年度は、対象マウスに発癌が見られた場合に用いる新しい解析手法として、第三世代シーケンサーの解析プラットフォーム作りを進めた。具体的には、一分子リアルタイムシーケンサーであるPacBio RSIIおよびSequel (Pacific BioSciences社) を用い、パイロットスタディとして、肝癌の最大の原因とされてきたC型肝炎ウイルスゲノムを対象に、一分子リアルタイムシーケンスを施行し、データを解析した。本シーケンス手法により得られる生リードはエラー率が10%以上と比較的高いリードであるが、Circular consensus sequencingと呼ばれるアルゴリズムを用いて、エラーの極めて少ない高品質なリード情報を得られることを確認した。現時点では、少なくとも、3000塩基の連続配列を、一分子毎区別して正確に決定できることまで検証しており、これまでに合計約28万クローンの連続DNA配列を決定した。離れた部位に存在する塩基置換の連鎖情報、欠失や重複といった構造異常などを検出し、従来のshort read の次世代シーケンサーを用いたvalidationを繰り返すことで、実在する構造異常の特定を行った。同一症例の異なる時期のサンプルに由来するPacBioデータを比較することにより、その一塩基置換や構造異常の動的変化をとらえることが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は主に、発癌が見られた時の解析手法として掲げている第三世代シーケンサーの解析手法を確立するため、PacBioRSIIおよびSequel(第三世代シーケンサー)のシーケンスデータを用いて、計画書に則り、データの解析方法を詳細に検討した。実際に、離れた部位に存在する複数の塩基置換の連鎖情報や、ゲノムの構造異常について、一分子レベルで解析する基本的な手法について確立しつつあり、今後の解析に応用できるものと考えられる。現在マウスモデルについてはまだ発癌が確認できていないが、発癌には長期間を要するものと考えられるため、今後経過観察を進め、発癌を認めた際には癌部および非癌部より核酸の抽出を行って、今年度確立した解析手法を応用していくことができると想定している。今年度これまでに進めた解析結果については、英文誌に原著論文として投稿し、既に採択されており、研究進捗は良好である。
経過観察中のマウスについては、長期間の経過観察が必要であると想定されるため、経過観察を続けるとともに、他系統のマウスとの交配による発癌促進などの可能性について慎重に検討を行う。また、ヒトゲノムの解析については引き続き肝癌のデータの解析を深めていくこととする。一分子リアルタイムシーケンスの基本的なデータ解析手法についてはこれまで確立・検証してきたデータをもとに、今後応用できるように最新の研究報告の情報を収集しながら、新規解析手法を検討および検証していく方針である。
すべて 2020
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Scientific Reports
巻: 10(1) ページ: 2651(論文番号)
doi: 10.1038/s41598-020-59397-2