COVID-19による研究活動の制約により、実験活動の継続が困難となったことを受け、次世代シークエンサーおよび第三世代シークエンサーを用いてこれまでに得られたデータの解析に加え、The Cancer Genome Atlas (TCGA) やInternational Cancer Genome Consortium (ICGC) にデポジットされた公開データベース上の次世代シークエンスデータを用いて、肝発癌のメカニズムについて追究する方針とした。 まず、昨年までに行った一分子リアルタイムシークエンスのデータの解析手法確立の延長で、昨年同様肝癌の最大の原因である肝炎ウイルスのロングリード解析を行った。肝癌においてヒトゲノムに挿入されることが知られているB型肝炎ウイルスゲノムの一分子リアルタイムシークエンスデータから、構造異常を加味した経時的な分子系統樹解析を行い、極めて複雑な構造異常を有するウイルスクローン集団が経時的にそのポピュレーションを変動させながら持続感染することが明らかとなった。近年、実際にヒト肝癌ゲノムに組み込まれているB型肝炎ウイルスゲノム配列の複雑性が国内外から報告されており、それらとの関連性については未検討であるが、今後ウイルス側のゲノム異常とヒトゲノム上のウイルス断片配列との関連などは重要な検討事項になると考えられた。 次に、ICGCやTCGAといった国際的ながんゲノム解析プロジェクトで登録された公開データベースから得られる、多段階肝発癌に関わる早期肝癌・進行肝癌のシークエンスデータより、肝癌および肝臓非癌部(主に肝硬変)の変異データおよび遺伝子発現データを収集して解析した。サイズの大きなデータ解析となり、今年度で終了できる解析ではなく、採用終了後も引き続きデータ解析を続行する予定とする。
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