本研究はフリデリク・ショパン(1810-1849)の楽曲と現在のポーランド以東・以西地域の芸術との影響関係を明らかにすることを目的としており、2020年度はまず①ポーランド以東のエリアでショパンの影響が考えられる作曲家としてヴィトルト・ルトスワフスキ(1913-1994)を取り上げ、彼が雪解け期に発表した《カジミェラ・イワコヴィチュヴナの詩による5つの歌曲》について、詩と楽曲の両面からの分析を行った。ショパンとルトスワフスキは年代こそ違うものの、「詩」に対する共通のスタンスを見出すことができるポーランド人作曲家たちであり、いずれも「ポーランド以東」(リトアニア等)あるいは「ポーランド以西」(フランス)との結びつきを見い出せる作品を書いていることから、年代、地域、そして学術領域(音楽と文学)を跨ぐ重要な点を指摘できた。以上の研究は日本音楽学会東日本支部第66回定例研究会にて口頭発表し、論文としては『スラヴ学論集』第24号に掲載が決定している(2021年5月発刊予定)。 続いて②ポーランド以西であるフランスとの関わりに注目し、ショパンの書簡の文体研究を続行した。これまでは、ショパンが20歳でワルシャワを出るまでの青年期に書いた手紙を扱い、したがってポーランド語文体の分析を特に音響的側面に注目して行ってきたが、現在はショパンがパリに移住してからのフランス語書簡の検証を始めている。次の課題としてショパンの1830年代末~1840年代の活動と、フランス文人や芸術家との交わりについての調査を想定しているため、2020年度に行ったこのフランス語文体分析は今後研究を遂行する上で重要な基盤固めとなった。
|