小惑星の表面では、主要な鉱物である硫化鉄鉱物から硫黄が選択的に消失していると予想されていたがその詳細な仕組みは不明であった。小天体の表面で進む、宇宙空間に曝された固体の化学・物理的な時間変化は宇宙風化と呼ばれる。宇宙風化の主な原因は、太陽から吹き出す荷電粒子(太陽風)の照射や、微小隕石の衝突加熱であると考えられている。宇宙風化は表面物質の変化を促す一方で、小惑星表面の年代や進化を知る手がかりでもある。本研究では、探査機はやぶさが小惑星イトカワから持ち帰った微粒子に注目して、硫黄に関連した宇宙風化作用を明らかにすることを目指した。イトカワ粒子には硫化鉄がわずかながら含まれ、宇宙空間に長時間さらされた硫化鉄の表面組織を観察することで、硫黄の消失の有無やそのしくみを解明することを目的とした。イトカワ粒子の微小な組織を走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡を使って分析し、宇宙空間に曝された硫化鉄表面には金属鉄のひげ結晶が成長していることを見出した。ひげ結晶は硫化鉄表面の広い領域を覆っていた。イトカワ粒子の金属鉄のひげ結晶は、硫黄が失われたのちに、過剰になった鉄原子を材料にして成長したと考えた。これらの研究から、太陽風によって硫化鉄が変化して硫黄が消失する現象が存在することを確認した。また、イトカワ粒子研究にひきつづく研究として、アポロ計画で採取された月面の砂粒子にわずかに含まれる硫化鉄の観察を行った。月の砂が含む硫化鉄の表面には、イトカワ粒子とよく似たひげ状結晶が見つかり、太陽系の異なる天体においても、宇宙空間にさらされた硫化鉄は類似した宇宙風化を辿ることを明らかにできた。硫化鉄の特殊案変化は太陽系天体表面で普遍的に進行すると考えられるため、地球外から持ち帰った天体物質の表面年代を理解する上で重要な指標になると期待される。
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