前年度に、HP1の欠損によりH3K9メチル化酵素が減少することを明らかにした。今年度はHP1によるH3K9メチル化酵素安定化の分子メカニズムの解明を目指した。HP1は機能が高度に保存された3種のホモログが存在する。HP1のホモログ全てを欠損させることで、HP1の機能の解明を目指した。HP1の完全欠損後の核を調べると、H3K9me3の消失とともにヘテロクロマチン構造がほぼ完全に欠損することが明らかになった。H3K9me3の消失にともない、H3K9メチル化酵素であるSuv39h1やSetdb1も分解されることが明らかになった。HP1とSuv39h1やSetdb1は結合することが先行研究により示されていることから、HP1に結合できないH3K9メチル化酵素変異体を作製した。タンパク質合成の阻害剤であるシクロヘキシミドや、プロテアソーム阻害剤であるMG132の添加実験から、HP1に結合できないH3K9メチル化酵素変異体は、ユビキチンプロテアソーム経路により迅速に分解されることが明らかとなった。次に、H3K9me3に結合できないHP1変異体を作製し、HP1の完全欠損細胞に安定的に発現させた。しかし、この変異体では、H3K9メチル化酵素を安定化することはできなかった。以上の結果から、HP1はクロマチン上にH3K9メチル化酵素をアンカーすることで、H3K9メチル化酵素を安定化することが明らかになった。本研究は、現在、論文投稿中である。次の課題は、H3K9メチル化酵素を分解するE3リガーゼを同定することである。本研究の完成により、ヘテロクロマチンの形成機構の観点から、真核生物がエピゲノムによりクロマチン構造を変化させる理由を明示できる。
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