研究課題
採用最終年である本年度は、これまで検討した金属錯体系の知見を基に光触媒や発光デバイスとしての利用が期待される新規機能性分子である2種類の異なる金クラスター錯体分子の超高速光励起ダイナミクスの観測を目指した。この系は共に6つの金原子からなるクラスター中心を持ち、それぞれ炭素鎖長が異なる架橋配位子が配位することでクラスター中心を取り囲み、安定化している。この2種の金クラスター錯体は配位子の長さが異なるだけで励起状態の発光挙動が大きく変化することが報告されている。より短い配位子を持つクラスター錯体は燐光のみを示すのに対し、長い配位子を持つ錯体は燐光と蛍光を共に発する。このことから、これら2種の錯体は光励起状態において異なるダイナミクスを示すために、発光挙動が異なっていると推測されるがその詳細は明らかにされていない。そこで、これらの系にフェムト秒時間分解吸収分光測定を適用すると、得られた過渡吸収スペクトルにはどちらの系でも減衰挙動に相関が見られる励起状態吸収及び誘導放出信号が見られた。しかし、信号の減衰時定数は大幅に異なり、燐光と蛍光を共に示す錯体では50ピコ秒程度の減衰が見られる一方、燐光のみを示す短い鎖長の配位子を持つ錯体ではわずか1ピコ秒程度で減衰し、三重項特有のスペクトル形状へと移ることが明らかとなった。この結果は、金六核クラスターを取り囲む配位子のわずかな長さの違いによって項間交差の時定数が50倍程度も変わることを示している。さらに、過渡吸収信号の時間変化には約310フェムト秒の振動周期を持つビート信号が観測され、クラスター錯体の励起状態構造変化が項間交差を劇的に加速している可能性を示唆している。この結果は、金クラスター錯体の分子構造の設計によって、項間交差を促進して触媒活性長寿命状態を優先的に生成させるといった機能制御を実現する上で重要な分子ダイナミクスの理解に繋がる。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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