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2018 年度 実績報告書

日本におけるトラウマとモダニティ:戦争と労働災害をめぐる経験・解釈・補償制度

研究課題

研究課題/領域番号 18J00642
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

中村 江里  慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(PD)

研究期間 (年度) 2018-04-25 – 2021-03-31
キーワード戦争神経症 / 外傷性神経症 / アジア・太平洋戦争 / 労働災害 / トラウマ / モダニティ
研究実績の概要

本研究の課題は、(A)総力戦とモダニティ:戦争神経症を中心とした戦時精神医療の国際比較と、(B)トラウマとモダニティ:戦争神経症と労働災害の比較の二つに分けられる。今年度は主に(A)の課題を進めた。
課題(A)に関しては、戦時精神医療の中核的施設であった国府台陸軍病院に入院していた「戦争神経症」の患者のうち、これまで分析を行ってきた「ヒステリー」に加えて、「神経衰弱」と診断された患者の診療録の分析を進めた。両者の比較分析の結果、診断のプロセスにおいて患者の階級や「将来の有用性」などの社会経済的要素が影響を与えていることが明らかとなった。
課題(B)に関しては、今年度は国会図書館や九州大学医学図書館、九州大学記録資料館での文献調査を行い、産業精神衛生や労働災害と外傷性神経症に関する医学論文等を収集した。
今年度は国外の学会・シンポジウムでの報告も積極的に行い、日本軍における戦争神経症と欧米諸国の事例との共通点と相違について、海外の研究者との議論を深めることができた。特にオランダでは、第二次世界大戦のトラウマの治療に関わる精神保健医療福祉の関係者や、戦争体験者とその家族の市民団体との交流を行い、オランダでは当事者だけでなく第二世代、第三世代へのトラウマの世代間伝達も含めた治療が国立のセンターで行われていることがわかった。戦争体験者世代が年々減少している日本においても、同様の課題があると考えられる。本研究では医療機関に入院した患者の記録が主な分析対象となるが、今後は戦争体験者の家族への聞き取りも進め、必ずしも医療機関を受診しなかったが戦後なんらかの精神的不調を抱えていた人々の状況もあわせて考察する予定である。
これらの研究成果に加えて、新聞・雑誌等への記事掲載やアウトリーチ活動を通じて、近代日本における戦争とトラウマに関する研究成果を広く社会に発信することに努めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

課題(A)で利用する国府台陸軍病院の病床日誌(原本)に関しては、倫理指針の変更や関係諸機関との調整に時間を要し、分析の開始が遅れているが、その他に関しては予想以上に研究が進展し、研究成果の国際的発信と社会的発信を積極的に行うことができた。

今後の研究の推進方策

2019年度は、課題(A)に関しては国府台陸軍病院の病床日誌(原本)の分析を早急に進める。また、これまで研究を進めてきた欧米諸国との比較に加えて、東アジアの事例との比較も視野に入れる。課題(B)はこれまで収集した史料の分析に基づいて学会報告や論文の執筆を行う。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Psychiatrists as Gatekeepers of War Expenditure: Diagnosis and Distribution of Military Pensions in Japan during the Asia-Pacific War2019

    • 著者名/発表者名
      Eri Nakamura
    • 雑誌名

      East Asian Science, Technology and Society

      巻: 13(1) ページ: 57-75

    • DOI

      https://doi.org/10.1215/18752160-7339316

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Broken Soldiers in the "Emperor's Army": War Neurosis and Military Psychiatry during the Asia-Pacific War2018

    • 著者名/発表者名
      Eri Nakamura
    • 学会等名
      The 7th Keio Symposium on Bridging Humanities, Social Sciences and Medicine: Technologies of Self-Care, Screening, and Surveillance
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 感情を管理される日本軍兵士たち――軍事化されたマスキュリニティと戦争神経症2018

    • 著者名/発表者名
      中村江里
    • 学会等名
      一橋大学ジェンダー社会科学研究センター第42回公開レクチャー
    • 招待講演
  • [学会発表] Male Hysteria in Japan : Masculinity, Trauma and Military Psychiatry during the Asia-Pacific War2018

    • 著者名/発表者名
      Eri Nakamura
    • 学会等名
      Asian Studies Association of Australia Conference 2018
    • 国際学会
  • [学会発表] Broken Soldiers in the "Emperor's Army" : Medical/Social/Individual Recognition of Trauma during and after the Asia-Pacific war2018

    • 著者名/発表者名
      Eri Nakamura
    • 学会等名
      Dialogue NJI Symposium
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 軍事精神医療に関するアーカイブズの概要と研究状況2018

    • 著者名/発表者名
      中村江里
    • 学会等名
      第22回日本精神医学史学会
  • [図書] 精神科學與近代東亞2019

    • 著者名/発表者名
      王文基, Yu-chuan Wu編,北中淳子, 兵頭晶子, 呂寅碩, 王文基, Yu-chuan Wu, 劉峻, 鈴木晃仁, 中村江里, Harry Yi-Jui Wu, 姜學豪, Huang Hsuan-Ying
    • 総ページ数
      484
    • 出版者
      聯經出版

URL: 

公開日: 2019-12-27  

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