研究課題/領域番号 |
18J00672
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
結城 笙子 同志社大学, 脳科学研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ラット / 記憶 / 確信度 |
研究実績の概要 |
メタ認知は行動レベルでは確信度に基づく行動制御であり、これは動物でも検討可能である。しかし、言語的な教示や内省報告を利用できない動物実験では、こういった高次認知機能を検討可能な行動を訓練するために多大な時間を必要とする。また、得られた行動データにメタ認知以外の要因が影響していた可能性を排除することが難しい。 本研究計画は、ラットを対象に、確信度の神経指標を利用して確信度に基づく行動制御を直接条件づける手法を確立することを目指すものである。これにより、動物のメタ認知研究の効率と妥当性を高め、そして指標とした神経活動とメタ認知の因果関係を強く示すことが可能となる。 研究初年度にあたる本年度は、確信度に基づく行動制御を直接条件づけるために必要不可欠である、ラットにおける確信度の神経指標を探索・同定した。具体的には、ラットに遅延位置見本合わせ課題という、記憶の記銘、保持、想起を要求する記憶課題を訓練し、課題遂行中のラットの内側前頭前野に多点電極を刺入し、この領域の神経細胞の発火頻度や局所電場電位が記憶確信度を表象するかを検討した。内側前頭前野は、ヒトを対象としたメタ認知研究において、特に記憶想起やその確信度への関与が示唆されている領域である。 実験の結果、ラットの内側前頭前野における記憶想起段階での正答直前の発火頻度は、記憶確信度の行動指標として知られる想起段階での反応潜時と相関することが明らかになった。この結果は、ラットの内側前頭前野の活動が記憶確信度に関与すること、また確信度に基づく行動制御を直接条件づけるための神経指標として有効であることを示唆する。さらに、記憶想起の正確性は同領域の記銘段階での局所電場電位から予測可能であることを示唆する結果を得た。この結果は、内側前頭前野が記憶に関する様々な情報をどのように表象し分けているかについて示唆を与える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、平成30年度の実施計画としては、ヒト実験で同定したメタ認知利用の関与部位に注目したラットの神経活動記録を行い、メタ認知利用の神経指標を探索・同定することを予定していた。 平成30年度においては当初の計画通り、ラットに遅延位置見本合わせ課題という、記憶の記銘、保持、想起を要求する記憶課題を訓練し、課題遂行中のラットの内側前頭前野に多点電極を刺入し、この領域の神経細胞の発火頻度や局所電場電位が記憶確信度を表象するかを検討することで、ラットにおける確信度の神経指標を探索・同定した。 その結果、内側前頭前野における記憶想起段階での正答直前の発火頻度が、確信度の神経指標として有効であることを示唆する結果を得た。さらに、記憶想起の正確性は同領域の記銘段階での局所電場電位から予測可能であることを示唆する結果を得た。このように、本年度は計画時点で目標としていたラットにおける確信度の神経指標を達成したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まず研究計画に沿って研究を一段階前進させ、得られた神経指標を使ってラットの行動を実際に誘導できるかを検証するために、ニューラルオペラントシステムを開発する。このシステムは、ラットが課題を遂行している際の神経活動を実時間で計測・解析し、メタ認知の神経指標となる特定の神経活動が見られた場合にのみ正解時の報酬を増やすという閉ループ制御系である。このシステムの中では、特に特定のタイミングでメタ認知の神経指標が出現した場合にそれを検出するという処理の実装が最も重要かつ困難な部分であるため、優先して取り組む。 また、ラットにおいて注目する脳部位を決定するために、先だってヒトで実施した動物のメタ認知課題と同様の構造を持つヒト用のメタ認知課題を利用したfMRI実験についても、ヒトと動物との連続性を意識したメタ認知研究として十分な新規性を持つため、早急に論文としてまとめることを目指す。
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