研究実績の概要 |
本年度には, Fano多様体上のベクトル束の研究の一貫として, 向井対の分類をK同値射やフロップの研究に応用した.K同値射とは, 滑らかな代数多様体間の双有理写像であって, 双方の標準束を保つものである. このようなものの中でも, もっとも単純なものを単純K同値射と呼ぶ. より正確には, なめらかな代数多様体間のK同値写像であって, 双方のなめらかなブローアップによって解消されるものを単純K同値射という. 単純K同値射は, Li 氏によって, 5次元以下の場合に分類されていた. 本年度には, 単純向井対という特別な向井対の定義を与え, それらの分類が単純K同値射の分類と同値な概念であることを示した. またその応用として, 単純K同値射の分類を8次元にまで拡張した.
また, Campana-Peternell 予想に関する研究も行った.Campana-Peternell 予想においては, 接束がネフなFano多様体は等質多様体であることが予想されている.今年度には, この予想について, 帰納的なアプローチがうまくいかない理由についてさらに考察を進めた. Ottaviani 束と呼ばれるベクトル束があり, その射影化は, 接束がネフなFano多様体と端射線理論の枠組みでは区別できない. 本年度には, このような例の新たな構成を求めて, トレント大学のOcchetta 氏, Sola-Conde 氏と共同研究に取り組んだ. この試みでは, Ottaviani 束の射影化に相当するような, 期待通りの例を得ることはできなかったが, それでもこのような例に近い多様体を得ることができ, 今後の新たな発展が見込まれると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Fano多様体とベクトル束に関する研究の一環として, 向井対の研究の新しい方面への応用を与えることができた. また, Campana-Peternell 予想についても, 決定的な結果を得られたわけではないが, Ottaviani 束の幾何について, 新しい見方を発見することができた.
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今後の研究の推進方策 |
向井対に関する研究については, 本年度に定義した単純向井対の分類について, その有限性等を目標に, さらに進めていく. また, Campana-Peternell 予想については, 近年有理曲線族を用いた等質多様体の特徴づけが発展している. このような発展の応用を模索する. とくに有理曲線族について, その値写像のファイバーが持つ幾何について考察する.
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