研究課題/領域番号 |
18J00682
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
小坂井 千紘 国立天文台, 重力波プロジェクト, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 重力波 / ノイズ |
研究実績の概要 |
当該年度は、KAGRA の重力波観測に向けた準備を進めてきた。フィードフォワードによるノイズキャンセリング、突発的なノイズの解析、イベントの妥当性評価などが具体的な内容である。 現在 KAGRA の重力波干渉計は、長さの自由度が4種類ある。縦横の腕の長さの差(DARM)、縦横の腕の長さの和(CARM)、ビームスプリッターから両腕のファブリペローキャビティまでの長さの差(MICH)、そしてパワーリサイクリングキャビティの長さ(PRCL)である。これらをそれぞれ制御することで重力波干渉計として動作させる。このうち重力波信号にあたるのがDARMである。DARM に対して、MICH・PRCL のノイズがカップリングを持っており、コンパクト連星合体にとって重要な 100 Hz 付近のノイズの大部分を占めていた。そこで、MICH・PRCL ノイズからのDARMへの伝達関数を、MICH・PRCL に人為的に信号を入力することで推定し、これを用いてDARMの長さを調整する入力信号をフィードフォワードしてノイズを落とした。これによって、特に効果の大きい周波数帯ではノイズを1/10程度まで落とすことができた。 突発的なノイズの解析のために、GlitchPlot というツールの開発を行った。突発的なノイズ(Glitch)は、原因も様々で重力波信号への現れ方も様々である。そこで、このツールでは、突発的ノイズの性質によってパラメータを自動調整して各補助チャンネルのプロットを作成し、ノイズの原因を特定するのに必要な情報をまとめ、ウェブ上で参照できるようにしている。コヒーレンスや周波数-時間領域のSN比を使って注目すべきチャンネルを自動でピックアップする機能も実装されている。GlitchPlot はノイズだけでなくイベント候補に対しても使うことができ、イベントの妥当性評価に利用している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、重力波干渉計のパフォーマンスを改善すること、干渉計のデータクオリティを評価する計画であった。 フィードフォワードによる干渉計の重力波信号に感度がない自由度からのノイズキャンセリングを実装し、1点目のパフォーマンス改善を達成することができた。 また、2点目の干渉計のデータクオリティ評価については、突発的なノイズ・重力波信号イベントに対して使えるGlitchPlot というツールを開発し、イベントがノイズによるものかどうか、ノイズであれば何が原因かを容易に調べられるようになったので、こちらも達成できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
KAGRA は4月に重力波観測を行った。本年度は、このデータを用いて重力波探索を行い、本研究の目的である強い重力場の検証に適したイベントがあれば、これを行う。重力波探索を行うにあたり、干渉計ノイズの理解が重要である。干渉計実験は、音・電磁場・地震などの外乱の影響を受けやすく、重力波由来でない突発的なノイズが発生する。このような突発的なノイズが多いと、重力波信号があってもノイズとの区別が困難となり、実質的に探索感度を下げてしまう。また、重力波信号と重なってしまうと、波形測定にバイアスがかかってしまう。そこで、重力波由来でない突発的なノイズを効率よく区別する解析手法の開発を行う。KAGRA では、環境ノイズを観測できるように、実験装置の要所要所にマイク・磁束計・加速度計・地震計などの測定器を設置して常時データを取得している。また、レーザーパワーや鏡の振動など、測定値に影響しうる各パラメータも常時データを取得している。これらのデータを用いて、重力波信号に突発的なノイズを混入させる原因となる事象の有無を判断したい。これらの補助データは数百種類以上あり、定常時の挙動も様々である。そこで、機械学習を用いて突発的なノイズと関連するかどうかを各時刻各チャンネルで判定する手法を考えている。また、重力波と突発的なノイズが重なってしまった場合に、波形測定のバイアスを抑える手法を開発する。一つのやり方は、突発的なノイズのある時刻を使わずに波形測定を行うことである。ここで、前節のノイズ源と関連のあるチャンネルの特定ができていれば、重力波信号の測定と独立に排除する時刻の設定ができ、時刻設定方法によるバイアスを抑えられることが期待できる。もう一つのやり方は、重力波信号から突発的なノイズの波形を差し引くことである。これを行うには補助チャンネルと重力波信号との間の伝達関数を知る必要があり、その推定方法を開発する。
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