研究課題
本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)とウィリアムス症候群(WS)における社会的注意の発達過程を比較検討し、社会的認知における各群の障害の本質を明らかにすることを目的としている。本年度は、3歳から14歳までの定型発達児(TD)、WS児、ならびにASD児を対象とした2つの行動実験に加え、乳児を対象とした近赤外分光法(fNIRS)と脳波計(EEG)を用いた2つの脳機能実験を、昨年度に引き続き実施した。(1)自然な共同注意場面における視線パターン:TD児、WS児、ASD児を対象として、実際の応答型共同注意および始発型共同注意における子どもの視線パターンを比較検討した。解析の結果、特に始発型共同注意において、WS児とASD児は困難を示すことが明らかとなった。(2)WS児、ASD児における感情理解:感情を引き起こすようなお話をした後に、登場人物の気持ちに感情をラベリングさせる課題を行い、疾患間で感情の理解に違いが見られるのか検討した。WS児は、「過去の記憶に基づく感情」および「入り交じった複雑な感情」の理解が、TD児に比べて苦手であることが示された。また、ASD児では、TD児と成績に大きな差が見られないことが示唆されている。(3)自然な相互交渉場面における乳児の脳反応:強力な社会的信号であるとされる「随伴刺激」に対する6-7ヶ月児の脳反応を、fNIRSとEEGを用いて検討している。これまでのfNIRSデータの結果より、随伴性の処理には、右の側頭頭頂接合部(TPJ)領域がかかわっていることが示唆されている。ASDのハイリスク乳児を対象としたfNIRS計測では、ローリスク児と同じ右のTPJ領域において活動の賦活が認められたものの、反応パターンが一部異なる可能性を示唆する結果が得られている。EEGを用いた脳機能計測については、データ収集が完了し、データ解析に着手しているところである。
2: おおむね順調に進展している
3歳から14歳までのTD児、WS児、ならびにASD児を対象に2つの行動実験を実施し、本年度は約60名の参加児のデータを新たに追加し、研究に必要な数のデータを収集することができた。データ解析の結果、自然な共同注意場面での注視行動において、疾患間で差異が認められている。これまで用いられてきた一方向的な刺激提示パラダイムを用いた先行研究とは一部異なる結果も示唆されており、疾患間研究に新しい知見を示すことができると考えられる。また、視線パターンの分析だけでなく、感情理解、言語、コミュニケーション行動といった、他の行動指標との関連についての検討も進めることができている。この結果の一部については、2020年1月に行われた国際学会と国内研究会にて第一著者として発表を行った。また、fNIRSとEEGを用いた2つの脳機能実験では、本年度は合わせて約40名の乳児の脳活動を計測することができた。fNIRSデータの一部について、2019年6月の国際学会において第一著者として発表を行った。また、英語論文を1本投稿し、査読後の修正中である。EEGデータについても、データ収集が完了し、データ解析に着手している状況であり、着実に成果を挙げている。
本研究の今後の推進方策として、(1)自然なインタラクション場面におけるTD児、WS児、ASD児の注視反応についてのデータ解析を進め、英語論文を執筆・投稿するとともに、(2)TD児、WS児、ASD児における感情理解についての日本語論文を執筆・投稿する。また、(3)乳児のEEGデータについて、外部の共同研究者と協力して解析を進め、研究成果を随時発表していく予定である。さらに、実験が再開できる環境になり次第、(4)昨年度に引き続きASDハイリスク乳児の社会的刺激への脳反応を、fNIRSを用いて計測しつつ、(5)fNIRSを用いた発達障害児と定型発達児の脳機能研究に着手する予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
NeuroImage
巻: 200 ページ: 511~527
https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2019.06.056