研究課題
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症には肝臓鉄代謝の破綻が関与する可能性が提唱されているものの、実体は不明である。本研究の目的は、マクロファージ鉄代謝がマクロファージ機能変容、及び、NASHの病態形成に及ぼす影響を解明することである。NASHモデルマウスより分離した肝非実質細胞を鉄キレーターの存在下で培養すると、炎症・線維化関連因子の発現が低下した。さらに、NASHモデルマウスに鉄キレーターを投与すると、これらの因子の発現が低下し、肝線維化も抑制された。培養マクロファージに対して鉄を負荷すると、NASHのマクロファージに特徴的なCD11cの発現が亢進した。昨年度実施した細胞内鉄含量が低い(Fe-lo)マクロファージと高い(Fe-hi)マクロファージを分離する実験、及び、NASHモデルマウスに対する鉄投与実験の結果と合わせて考えると、肝臓におけるFe-hiマクロファージがNASHの病態形成に対して貢献度が高い集団であり、細胞内鉄含量が高いことがマクロファージにおけるNASH促進機能の獲得を促進する可能性が示唆された。そこで、このメカニズムを明らかにするために、鉄を負荷したマクロファージの遺伝子発現パターンを解析し、MiT/TFEファミリー転写因子に着目した。培養マクロファージにおいて、MiT/TFEファミリーの過剰発現により形質転換が生じ、一方、ノックダウンすることにより、鉄負荷による形質転換が抑制された。さらに免疫染色により、NASHモデルのクッパー細胞においてMiT/TFEファミリーの核移行を認めた。ここまでの知見から、NASHの発症過程において、細胞内鉄含量の多いクッパー細胞サブタイプが、炎症や線維化に対して促進的に働くことが明らかになった。この分子メカニズムとして、鉄蓄積によりMiT/TFEファミリー転写因子が活性化し、形質転換を誘導すると想定された。
2: おおむね順調に進展している
研究期間2年目の目標として、鉄により駆動されるシグナルを同定し、細胞内鉄代謝がNASHにおけるマクロファージの形質転換に及ぼす影響を明らかにすることを目指した。培養細胞を用いた検討の結果、鉄により活性化されるシグナルとして転写因子MiT/TFEファミリーを見出した。NASHモデルマウス肝臓のマクロファージにおいてMiT/TFEファミリーが活性化することも確認しており、鉄により駆動されるMiT/TFEシグナルの病態形成に対する寄与が強く示唆された。ここまでの結果を基に国内外の学会において成果報告も達成できたため、おおむね順調に進展していると判断した。
鉄により活性化されるシグナルMiT/TFEファミリーが、NASHにおける炎症・線維化誘導因子の発現誘導にどのような役割を果たすかを、ノックダウン実験や過剰発現実験から探索し、鉄がNASH促進マクロファージを誘導する分子メカニズムの実態解明を目指す。
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Sci Rep
巻: 10 ページ: 983
10.1038/s41598-020-57935-6