研究実績の概要 |
昆虫の味覚は、味覚受容体(Gustatory receptor, Gr)と呼ばれる化学受容体ファミリーによって仲介されると考えられている。Grは味覚に関連する口器だけでなく、消化管や血球など全身のあらゆる組織で発現している。すなわち、Grはエサの味を判断する単なる“味覚”のための分子ではなく、体内で栄養分をはじめとした化合物を認識するセンサーとして働くことが示唆された。本研究は、昆虫の体内組織に発現するGrの役割を解析し、Grの新たな機能の解明を目指す。
本年度は、以下の点について解析を行った。 1.栄養センシングに係るGrの役割を検証するため、カイコのGrノックアウト個体の作出を目指した。しかし、CRISPR/Cas9システムの立ち上げにおいて、マイクロインジェクション後の孵化率や生殖細胞系列への導入効率が低く、それらの検討に時間を要した。共同研究者の協力のもと、現在1系統は使用できる目処が立っているが、残りの変異体の作出を急いでいる。
2.キイロショウジョウバエを用いて脳におけるGrニューロンの投射先を同定することを目指し、トランスジェニック系統を作出した。その結果、Grニューロンの上流や下流に存在するニューロンの性質について情報を得ることができた。今後はこの情報をもとに上流下流のニューロンを遺伝学的にラベルして操作することによって、Grニューロンの機能を支える神経的・内分泌的な基盤に迫る。
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