研究課題/領域番号 |
18J00754
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大久保 勇輔 東京大学, 数理科学研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | Macdonald多項式 / 量子トロイダル代数 / 共形場理論 |
研究実績の概要 |
Ding-Iohara-Miki代数(DIM代数)と呼ばれるあるHopf代数の表現論について研究を行った。DIM代数とはaffine量子群のある種の一般化であり、量子toroidal代数や楕円Hall代数とも呼ばれる。この代数が2次元共形場理論と4次元ゲージ理論のある種の双対性であるAGT対応のq-変形版や、素粒子物理学の超弦理論において重要な役割を果たす。DIM代数の2種類の表現(ただし自己同型写像を通して同値である)を用いて導入されるintertwining作用素は、refined topological vertexと呼ばれるNekrasov分配関数の重要な構成要素を実現することが知られている。
今年度は、このintertwining作用素を複数合成し、ある表現に関してループ(トレース)を取ったものが、スペクトルパラメータを調整すれば、白石潤一准教授によって導入された非定常Ruijsenaars関数(の特殊化)を再現することを証明した。非定常Ruijsenaars関数とは楕円Ruijsenaars関数の非定常化(Hamiltonianに時間依存性を持たせる変形)にあたる関数であり,あるパラメータを特殊化すると非定常楕円Calogero-Sutherland模型の固有関数を与えることが予想されている。さらにintertwining作用素のある双対公式から、非定常Ruijsenaars関数とMacdonald関数の楕円gamma関数による持ち上げが本質的に同じであることを証明した。 その他にも、Macdonald関数を固有関数に持つある積分作用素をDIM代数のintertwining作用素を用いて構成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非定常Ruijsenaars関数はハミルトニアンの非定常化という意味以外にも、Macdonald関数のaffine化、affine Laumon空間のEuler指標などとしての意味を持つ重要な関数である。Intertwining作用素のループをとったものは6次元ゲージ理論の分配関数に対応する。このような分配関数に一定の解釈や理解を与えることができ、本研究の目的の一つを達成できたため。
|
今後の研究の推進方策 |
AGT対応の片割れにも表れる(5次元)Nekrasov 分配関数は重要な特殊関数として捕らえられている。一般にはその関数の満たす差分方程式や収束性は明らかになっていないが、パラメータを特殊化した場合においては、(q-) 超幾何関数やMacdonald関数、(q-)パンルヴェ 方程式の解などが現れるからである。このような特殊化した場合における研究を重ねることで、5次元Nekrasov 分配関数の性質をより深く理解する。 5次元Nekrasov分配関数はDing-Iohara-Miki代数のintertwining作用素を用いて代数的に実現することができる。Intertwining作用素と代数との関係式を用いれば、あるスペクトルパラメータを特殊化した場合において、Macdonaldの差分作用素を導出することができる。このことから分配関数がMacdonald関数になることが自然に理解できる。 本年度は、Ding-Iohara-Miki代数のintertwining作用素を用いて、Sergeev、Veselovによって導入された変形されたMacdonald関数を、Ding-Iohara-Miki代数のintertwining作用素によって実現できないかを考える。 またDing-Iohara-Miki 代数はgl_1 型の量子toroidal 代数であるが、一般のgl_n 型においても同様に研究を行う。この場合に現れる関数はwreath Macdonald 関数と呼ばれる関数であることが期待されるので、この関数との関係も調べる。 さらにこれらの代数の表現論やMacdonald多項式との関係をBC型に拡張する。つまりKoornwinder多項式に対応した代数の構成や、その代数によるKoornwinder作用素の解釈を与えたい。
|