昨年度に予定していた米国プリンストン、ダラス及びアルゼンチンでの調査は、新型コロナウイルス感染症の影響により今年度に延期していた。しかし今年度も状況は改善せず、採用期間中に海外調査を行うことはできなかった。引き続き訪問予定先とは連絡を取り、調査の実現に向けて調整を行っている。そのため今年度は、オンラインでの資料収集・情報収集を行った。訪問予定だったプリンストン大学図書館は遠隔複写サービスを行っており、酒井和也が編集長を務めた雑誌『プルラル』関連資料の一部を、写真データで入手することができた。今後もこのサービスを利用して資料収集を行う予定である。他にも国内外の研究者とメールやオンライン会議を用いて情報交換を行った。 今年度は酒井が参加したアルゼンチンとメキシコの芸術運動についての研究を進めると同時に、酒井がスペイン語に翻訳した芥川龍之介「羅生門」の分析を行った。後者の成果は、「酒井和也による芥川龍之介『羅生門』の翻訳―英訳・スペイン語訳との比較分析―」というタイトルで論文にまとめた。酒井の2種類の翻訳テクストを原文や英訳、その他のスペイン語訳と比較し、日本についてほとんど知られていなかった1950年代のアルゼンチンで、酒井がどのように芥川を紹介したのかについて考察した。1月28日には東京外国語大学国際日本研究センター主催の講演会で口頭発表を行った(「ラテンアメリカにおけるポストコロニアル文学と移民」、オンライン)。これまでラテンアメリカの日系人の文化活動について研究してきた成果をまとめ、ポストコロニアルという観点から報告を行った。 特別研究員の採用は令和3年6月までの予定であったが、就職のため令和3年3月31日付で中途辞退した。
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