研究課題
2019年度は、(1)Notchシグナル活性化癌の浸潤転移をモデルとした共培養システムの確立とその微小環境機構の解明. (2)NOTCH1-4遺伝子における下流標的因子の層別化.(3)Notchシグナル活性化癌細胞株・正常細胞の共培養による微小環境機構の解明. について解析を行った。(1)では、まずNotchシグナルを活性化かつ早期細胞老化機構が破綻した細胞のモデルとしてJAG1の強制発現による老化誘導を回避する因子の探索を行った。その結果、MYCの強制発現+TP53のKD及びTGFBR2 KDによりJAG1の強制発現による老化誘導を回避する事が明らかとなった。またRNA-Seq解析の結果、JAG1の強制発現による老化誘導を回避した細胞では、細胞老化誘導時におけるp21 及びp15の発現上昇が抑制されており、その結果老化を回避しているのではないかと考えられた。さらにJAG1活性化かつ老化誘導を回避した細胞と正常細胞を共培養し、タイムラプス解析を行った。その結果、JAG1活性化かつ老化誘導を回避した細胞が正常細胞を巻き込みながら増殖し、正常細胞に老化を誘導していく様子が確認された。(2)では、NOTCH1-4の細胞内ドメインをそれぞれ単独で強制発現させた細胞においてRNA-Seq解析を行った。RNA-Seqによる網羅的な遺伝子変動解析の結果、NOTCH1-4の強制発現によって発現変動した遺伝子群は非常に良く似ており、JAG1の強制発現によって発現上昇していたp21やp15の発現上昇も共通して認められた。(3)では、KRAS(+)の膵臓癌細胞株であるMIA PaCa-2の細胞株を用いて正常線維芽細胞との共培養実験を行なった。その結果、JAG1が高発現しているMIA PaCa-2細胞はコントロールのJAG1 KD細胞株に比べて、有意に正常細胞を老化させる事が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
Notchシグナルを活性化かつ早期細胞老化機構が破綻した細胞モデルの確立と癌細胞を用いた共培養の実験において予定通り計画が進行した。またNOTCH1-4遺伝子のそれぞれの細胞内ドメインの強制発現によるRNA-Seq解析から、共通または特異的な下流標的遺伝子を同定することができた。そのため2019年度に予定していた研究計画は、おおむね順調に進展したと考えている。
2020年度は、以下の研究計画を予定している。(1) JAG1-Notchシグナルの活性化を介した老化誘導機構における共培養時のシングルセル解析.(2) JAG1-Notchシグナルの活性化による細胞老化機構及び癌化メカニズムの臨床応用への検討.(1)に関しては、JAG1-Notchシグナル活性化細胞が周辺の正常細胞に老化を誘導する分子機序やNotchシグナル活性化癌細胞株が浸潤時に正常細胞に及ぼす分子メカニズムを明らかにするため、シングルセルRNA-Seqによる解析を予定している。また(2)に関してはNotchシグナル阻害剤のGSI(γ-secretase inhibitor)を用いて浸潤能の阻害を検証し、臨床応用可能であるか検討を行う。以上の解析からJAG1-Notchシグナルの癌抑制防御機構並びに癌分子機構を理解し、新規癌治療方法を開発するための研究基盤を確立する予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Cancer Sci.
巻: 2020;00 ページ: 1-11
10.1111/cas.14370