研究課題/領域番号 |
18J00869
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
紀 愛子 成城大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 西洋史 / ドイツ史 / 現代史 / 障碍者 / 断種 |
研究実績の概要 |
本研究は、ナチ政権下の障碍者迫害をめぐる、戦後ドイツの「過去の克服」の立ち遅れの背景にあった、精神障碍者に対する差別意識の連続性とその変容とを、1945年から1990年代後半にかけての(1)同作戦の加害者である医師及び医学界の認識の変遷過程と、(2)犠牲者及びその遺族個人の被差別経験の歴史という二つの視点から検討し、(3)両者を対照させながら考察を加えることで、同時期のドイツにおける精神障碍者をめぐる差別的言説の形成過程と影響力の射程及び差別・被差別構造のメカニズムを解明することを目的とするものである。 実施二年目である今年度は、上記(1)の「医学界における障碍者に対する認識の変遷の解明」に関連して、前年度に引き続き、戦後ドイツ遺伝学界や医学界において展開された障碍者の断種論について調査した。前年度は、戦後における断種論の主唱者であったハンス・ナハツハイムを中心に分析を行ったが、今年度は対象を拡大し、断種に批判的であったオットマー・フライヘア・フォン・フェアシュアや、フリッツ・レンツなどの言説を加え、戦後ドイツにおける断種をめぐる議論の全体像の描出を試みた。この成果は、ドイツ現代史学会のシンポジウムにおいて口頭発表したほか、その概要を、ドイツ現代史研究会機関誌『ゲシヒテ』に寄稿した。 また、(2)犠牲者および遺族故人の被差別経験の分析にあたっての準備作業として、障碍者迫害をめぐる「過去の克服」の遅滞の実態について、受け入れ研究員である中野智世氏をはじめとする計3名の研究者との共同研究、およびそこでの議論を通じて調査と理解を深めた。具体的には、障碍者迫害の過去に対する戦後ドイツ医学界の認識の変遷や、障碍者迫害をめぐる戦後裁判の帰結などについて概観的に調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
戦後ドイツ医学界における障碍者に対する認識の変遷については、今年度において一定の成果が得られた。しかし、本研究において重要な一角を成す、強制断種被害者および「安楽死」犠牲者遺族の被差別経験に関する調査については、当事者への聞き取り調査が実施できず、今年度の成果発表には至らなかった。そのため、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
実施3年度目である令和2年度においては、強制断種被害者および「安楽死」犠牲者遺族の被差別経験に関する調査分析を進める。なお、上述した当事者への聞き取り調査については、現今の国際情勢に鑑みれば、令和2年度中の実施も困難を極めることが予想されるため、現在、回想録などの文字史料の追加収集に努めている。 その上で、前年度までに明らかにした医学界や遺伝学界における障碍者に対する認識の変遷と、当事者の被差別経験とを対照させて検討することで、研究全体のまとめあげを行う。
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