研究課題/領域番号 |
18J00872
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
眞野 豊 広島修道大学, 人文科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 性の多様性 / LGBT / 授業実践 / カリキュラム |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、中国地方の公立学校において性的指向及び性自認の多様性を踏まえた授業づくりに携わるとともに、多様な性を踏まえた授業に関するデータの収集を行なった。具体的には、広島市内の2つの小学校で授業づくりに参画しながら、学校長、教職員たちとともに授業及びカリキュラムの計画と実践を行なった。また、それぞれの学校には当事者の児童が在籍することから、性的指向や性自認を理由とした差別を防ぐ教育環境作りや学校組織のあり方、保護者との関わりなどについて検討を重ねてきた。これらの学校では、多様な性に関する学びをすべての人に関わる問題ととらえ人権教育の一つに位置づけながら、長期的な視野にたったカリキュラム及び授業づくりに取り組んでいる。また、性的指向及び性自認の多様性について保護者の理解を促進するために、参観授業を使った啓発も実施した。 さらに、鳥取県教育委員会と共同で性的指向及び性自認の多様性を踏まえたカリキュラムと指導方法について研究し、教職員向け指導資料を作成した。この資料では、多様な性に関する指導のあり方について解説し、発達段階をふまえた指導例や教材例も収録した。また、教職員研修のグループワーク等で活用することも想定し、教育現場における多様な性に関する人権課題の事例も収録した。この指導資料を活用した授業や教職員研修について、今後は追跡調査を行なっていく。この他に、福岡市でも教育委員会の依頼を受けて、多様な性に関する教職員向けの指導資料を作成した。 また、低学年向けの教材開発の一環として新たに『ランスとロットのさがしもの』(ポット出版)を出版することができた。広島県内の小学校でこれらのLGBT絵本を活用した授業について参与観察を行ない、学年による児童の反応の違いなどについてデータ収集をすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画としては、全国規模でのLGBT教育施策に関する数量的調査及び授業実践例のデータ収集を通して、体系的カリキュラム及び教師用指導書を作成することを予定していた。しかし、研究2年目の2019年度は、研究方法の見直しを行ない、全国的なデータ収集を地域的に限定した九州・中国地方におけるデータ収集に切り替えることにした。この方向性の変更の理由としては、調査対象エリアを限定してデータを収集した方が調査対象の教育実践に深く関わることができ、そうした実践事例の質的側面を分析・考察の対象とした方が、体系的カリキュラム及び教師用指導書を作成するという目的には適していると判断したからである。さらに、データ収集を行ないながら積極的に授業実践に参画することで、対象地域の教育に貢献できると考えた。 このような方向性の変更を踏まえながら2019年度は実践的側面におけるデータ収集を進捗させることができた。調査地域を限定したことで、同一校での継続的な調査を実施し、前年度との比較検討を行ないながら、データ収集及び授業の開発を進めることができた。また、複数の教育委員会から依頼を受けて、多様な性を踏まえた教育に関する教師用指導資料を作成した。それらの資料を作成するにあたり、発達段階をふまえた指導例や教材例について検討を重ね、発達段階に応じたカリキュラム・教材の開発をある程度進捗させることができた。しかしながら、それらのカリキュラムや指導内容に関する体系性や理論的枠組みの検討については十分進捗させることができなかったため、理論的な枠組みを深めていくことが次年度以降の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までに行なった研究では、実践的側面におけるデータ収集はある程度進捗できたものの、カリキュラムや指導内容の体系性や理論的枠組みについての検討が不十分であった。そこで最終研究年度の2020年度は、性的指向及び性自認の多様性に対応した教育の体系性や理論的な枠組みを深めることに重点を置き研究を進めていく。 具体的には、ジェンダー及びセクシュアリティと教育に関する先行研究や、クィア教育学に関する先行研究を踏まえながら、これまでに収集した授業実践の内容や方法、カリキュラムについて分析を行なう。その際、特に欧米の学校で行なわれてきたLGBT教育に関する実践やクィア教育学に関する理論的な蓄積を参照することで、日本の学校で行なわれているLGBT教育について批判的な検討・分析を試みたい。海外の実践や先行研究をもとにした十分な検討を踏まえることで、性的指向及び性自認の多様性に対応した教育を支える理論的な枠組みを強化し、カリキュラムや指導内容・方法の体系性や普遍性、汎用性などを高めていきたい。 最終的にはこれらの研究で得られた成果を教師用指導書としてまとめ出版することを目指す。
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