今年度は、うつ病や統合失調症といった精神障がい者の社会的包摂の過程で問題となる自殺のリスクについて、国内ではどのようなサポートがあるのか、また実際にサポートを行っている人々が抱えている困難について、医療福祉・教育・法律の専門職の方(自死遺族の方を含む)を対象としたインタビュー調査データの分析を行った。調査からは、主に次のことが明らかになった。精神障がいをもち自殺未遂を繰り返す人への継続的支援が不足していること、精神医療の主要疾患である統合失調症を発症する年齢にさしかかる大学生では、教職員と学内の医療専門職との連携が不足しており、学生の危機的状況を把握しにくいといったことが、支援を行う専門職が直面している状況としてあげられた。精神障がい者あるいは精神障がい者を家族にもつ人々への自殺予防支援については、精神科といった医療機関だけではなく教育機関、また医療と教育をつなぐ行政機関が互いに情報を共有、連携することが求められていることが示唆された。これらの結果について、論文を発表した。 また、同調査では、医療福祉領域で用いられている「自殺のサイン」概念について、自殺者の身近な他者がどのように解釈しているかについても分析した。そして、身近な他者ほど自殺者の行動を「自殺のサイン」と解釈しにくいこと、自殺予防の取り組みでは、「自殺のサインに気づくこと」を啓発するよりも、身近な相談先があることを周知するような方法の方が有効である可能性が示唆された。これらの結果について、それぞれ『第91回日本社会学会』と『第42回自殺予防学会』で発表した。
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