研究課題/領域番号 |
18J01039
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安達 俊介 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 宇宙マイクロ波背景放射 / 初期宇宙 / 検出器角度較正 |
研究実績の概要 |
研究課題は宇宙初期に起こったビックバンの残光である「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」という電波を精密に観測し、宇宙初期の物理を探求することである。特に、Simons Array 実験と呼ばれるチリ・アタカマ高地に設置されている望遠鏡に従事し、ワイ ヤーを用いた検出器のアンテナ角度の測定・評価によって電波の持つ偏光と呼ばれる角度を精密に観測することを可能にし、インフレーションといった宇宙初期の未だに確定されていない物理を検証することに重きを置いている。ワイヤーを用いたアンテナ角度の測定とは、ワイヤーの反射光がワイヤーの方向に沿った偏光角度を持つことを利用して、アンテナ角度がどの方向に向いているか測定・評価する方法である。ワイヤーをいくつか張ったリングを望遠鏡の前面に置くことで、そのワイヤーの偏光した反射光を検出器に見せ、その時の検出器の応答から検出器のもつアンテナの方向を調べるという方法である。検出器はアンテナと一対となって望遠鏡に多数搭載され、そのアンテナの方向は一定ではない。 様々な角度の偏光を見せることで、すべてのアンテナ角度の測定が可能となる。Simons Array 望遠鏡では、望遠鏡の前面に半波長回転板といわれる、入ってきた光の偏光角度を回転させる光学素子を搭載する予定であり、ワイヤーを用いたアンテナ角度の測定では、半波長回転板によってワイヤー光の偏光を回転させて様々な方向の偏光を検出器に見せる必要がある。Simons Array 実験は 1 年目から現在までコミッショニングが精力的に続けられているが、 今年度はその半波長回転板を搭載するまでコミッショニングが進まなかった。そこで、本研究者は今年度から Simons Array 実験と並行して開発が進められている Simons Observatory というアップグレードされる望遠鏡のほうで同原理に基づいたアンテナ角度測定装置の開発に主に取り組みはじめた。今年度は大方の装置の設計を終えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Simons Array 実験でのワイヤーを用いたアンテナ角度評価に関しては、望遠鏡側の問題で研究が進まなかったが、その代わりにSimons Observatory 実験のほうで、同じ原理を用いたアンテナ角度の測定装置の開発を進めた。1年目に開発した Simons Array 実験用の装置とは異なり、アンテナ角度の測定・チェックを定期的に自動でおこなえるようにしたために、複雑な機構を持ち合わせた装置となったが、今年度中に設計を終えることができた。 また、アンテナ角度測定装置と並行して望遠鏡の最内層の「光学円筒」の開発・製造にも取り組み、特に本研究員が開発した 3D プリンタを用いた優れた電波吸収体の製造・実装に注力した。電波吸収体とは、望遠鏡に外から入ってくる余分な電波を吸収してノイズを抑えるのに大きく貢献する素材である。この電波吸収体は3Dプリンタを用いることで非常に柔軟に形状を変化させることができるために、他の電波吸収体では覆うことのできない内壁の複雑な箇所や細かい箇所まで覆うことができる。一方で、それらすべてを覆うためには、多様な形状のかつ正確な設計が必要となった。非常に煩雑な電波吸収体の設計を正確におこない、また大量の電波吸収体を自らの手で製作し、光学円筒の内壁のほとんどを覆うことを達成した。この電波吸収体によってあらゆる余分な電波を大幅に抑制できる。また、実装した電波吸収体の冷却試験やこの 3D プリンタを用いた電波吸収体についての学術論文の出版などもおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
Simons Observatory 実験のワイヤーによるアンテナ角度測定装置では、定期的な自動測定をおこなうために、ワイヤーが望遠鏡の前面を覆ったり、前面から外れたりするように、電動で動く機能を持つ必要がある。宇宙観測をしている間はワイヤーが望遠鏡前面にあると空を遮ってしまい邪魔になるので、アンテナ角度を測定している間以外は望遠鏡の前面から外れる必要がある。このワイヤーの移動を電動モータによっておこない、さらにワイヤー自身の向きを様々に回転してその偏光の角度を回転することをも自動でできるように、回転モーターを搭載する。これらハードウェアの設計を今年度にほぼ終え、現在はワイヤーを回転させる機構の製造が進んでいる。これらの製造が済んだら、今度は実際に組み立ててこれらの移動・回転といった動作を確認する必要があるので、モータなどの電子機器を制御するエレクトロニクスが必要となる。エレクトロニクスの概念設計もすでに終えているが、来年度はじめはこれらのエレクトロニクスの具体的な設計と組み立てをおこない、実際にアンテナ角度測定装置の動作試験をおこなう予定である。さらに、望遠鏡の試運転も来年度中頃にはおこなわれる予定であるので、そこに装置を搭載してその性能を確かめ、ワイヤーを用いたアンテナ角度の測定・評価方法の確立を目指す。
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