研究実績の概要 |
銀河の中心部に普遍的に存在する超巨大ブラックホール(活動銀河核)とその母銀河の共進化メカニズムを理解するために、今年度は下記の3つの成果をあげた。 1. 太陽光度の100兆倍以上の明るさで輝く赤外線銀河の発見 (Toba et al. 2018, ApJ, 出版済み): 母銀河の星形成活動と中心核超巨大ブラックホールのブラックホール活動(質量降着)が最大となるような段階は、系全体が塵に覆われるだけでなく赤外線光度が極めて大きくなることが期待される。そのような銀河は極超高光度赤外線銀河 (ELIRG) と呼ばれる。我々はELIRGを発見し、その赤外線光度や星形成率などを算出した。 2. X線を用いた共進化システムのブラックホールの性質調査 (Toba et al. 2019, MNRAS, 出版済み): 活動銀河核で知られている赤外線光度とX線光度の相関を支配する物理量を探るために、全天探査観測データを利用し、幅広い光度幅の活動銀河核サンプルを構築した。詳しい解析の結果、赤外線-X線の光度相関は規格化した質量降着率に依存することが分かった。 3. 電波を用いた共進化システムの母銀河およびブラックホールの性質調査 (Toba et al. 2019b, ApJS, 投稿・査読中): 共進化システムの終末期に対応すると考えられている電波銀河を、すばる望遠鏡の超広視野カメラ (HSC) を用いた広域可視光撮像探査データと広域電波撮像データを併用することで発見し、可視光線から電波までの多波長データを併用することで、HSCで初めて見つかった可視光線で暗い電波銀河の母銀河および中心核ブラックホールの性質を調べた。その結果、HSCで新発見された電波銀河は、従来の電波銀河像とは異なり、星質量が小さく塵が豊富で星形成率や赤外線光度などが大きいという結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画初年度までに構築した共進化途上期システムの「超巨大ブラックホール」に焦点を当てた研究を行なう。京都大学の上田准教授や上田研究室の大学院生・研究員と協力し、NuSTAR衛星やSwift衛星などを用いたX線観測を実施する予定である。本年度に観測が一部実施されたが、優先度の高い他の研究者の突発天体観測が割り込んだため要求観測時間を満たさずに終了した。観測データからX線光度の上限値は求まったが、制限としては非常に弱い。そこで、本年度末に追加観測提案を NuSTARに提出した。これが採択されれば、次年度に観測データの解析を行い共進化途上期システムの超巨大ブラックホールのX線光度を精度よく決定することが可能となる。
超巨大ブラックホールの性質調査に加え、超巨大ブラックホール起源の放射で電離された周囲のガスの物理科学状態の調査も実施予定である。既に我々は、超巨大ブラックホールの影響を受け激しい電離ガスアウトフローを伴う共進化途上期システムを数十個発見済み(Toba et al. 2017, ApJ, 発表・出版済み)であり、その中から特に激しい電離ガスアウトフローを伴う天体の面分光観測提案を「すばる」望遠鏡に本年度提出した。これが採択されれば、電離ガスの運動の2次元情報を取得可能となり、共進化を司るメカニズムの1つとして着目されている「活動銀河核フィードバック」と呼ばれる現象の現場に迫ることができる。
さらに、2019年2月から 東アジア最大の口径をもつ 京都大学「せいめい」望遠鏡の運用も開始された、本年度に提出した観測提案は採択され、次年度に複数回の観測を予定している。ここでは、共進化に重要な影響を及ぼしたと期待されている「銀河合体」という現象に着目し、銀河合体が共進化に果たした役割を定量的に調べる予定である。
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