研究課題/領域番号 |
18J01050
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鳥羽 儀樹 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 天文学 / 超巨大ブラックホール / 多波長観測 / すばるHSC / NuSTAR衛星 / SOFIA天文台 |
研究実績の概要 |
超巨大ブラックホールと母銀河の共進化を司る物理を探るために、本年度は特に下記に述べる3 つの研究成果を得た。
(1) 我々が参加している「すばる」望遠鏡の新型カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) を用いた可視光線広域撮像計画で得られたデータに、アメリカ国立電波天文台が運用しているVLA電波干渉計を用いたFIRST計画で得られたデータを併用することで初めて見つかってきたた電波銀河を対象とした研究を実施した。見つかった電波銀河に対して多波長観測データを併用することで、それらの母銀河および中心核ブラックホールの性質(ブラックホールの質量や質量降着率、母銀河に付随する塵の性質や母銀河の星質量・星生成率、電波光度など)を明らかにした(Toba et al. 2019b, The Astrophysical Journal Supplement Series に報告・出版済み)。 (2) 我々が探査を進めている成長途上期の超巨大ブラックホールをNASAのNuSTAR X 線衛星で観測することで、この天体が視線方向の水素の柱密度が 10^24 cm-2を超えるような、塵やガスに深く埋もれた種族 であることが分かった (Toba et al. 2020a, The Astrophysical Journal に報告・出版済み)。 (3) Toba et al. (2018) にて発見が報告された、太陽の100兆倍以上の光度で輝く 赤外線で極めて明るい銀河を SOFIA スペースクラフトで追観測することで、この銀河の塵の温度やより正確な赤外線光度を明らかにした (Toba et al. 2020b, The Astrophysical Journal に報告・出版済み)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
銀河と超巨大ブラックホールの進化を理解するためには、共進化途上期システムに加え、あらゆる進化段階におけるシステムの理解が重要である。今年度は下記の3つの点で重要な成果をあげたと言える。 1. 共進化途上期システムに潜む超巨大ブラックホールの性質(質量降着率やブラックホール周辺のガスの密度)の理解が進んだ点(Toba et al. 2020a)。 2. 共進化途上期システムの中でも特に興味深い(超巨大ブラックホール活動と母銀河の活動が互いにピークを迎えると期待できる)進化段階に対応すると期待される天体の母銀河の性質(星質量や星生成率、母銀河に付随する塵の温度など)の理解が進んだ点 (Toba et al. 2020b)。 3. 共進化週末期に対応すると考えられている電波銀河に潜む超巨大ブラックホールおよびその母銀河の性質の統計的理解が進んだ点 (Toba et al. 2019b)。 また、1の研究では水素の視線方向の柱密度が大きい種族を新たに発見できた点、2の研究では宇宙で最大光度に匹敵する銀河を発見できた点、3の研究では近傍宇宙で知られていた電波銀河の性質とは異なる性質を持った電波銀河を多数発見できた点でも意義深い。上記の結果は全て査読つき論文として報告・出版済みであり、国内外の研究会でも多数の発表を行うことができた。以上より、本研究計画はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに構築した共進化途上期システムの中で特に興味深い天体についての追観測を実施する。我々は、すばる望遠鏡のHSC とNASAの赤外線天文衛星WISEを用いて、共進化途上期の中でも特別な進化段階にいる可能性がある天体を発見した。本年度はジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡どを用いた追観測を実施予定である。昨年度提出した提案は受理されデータが送られてくるのを待っている段階である。このデータを用いることで、この候補天体のおおよその距離や光度、母銀河の星生成率(ガスから星への変換効率)などを見積もることが可能となる。同様の研究は日本の赤外線天文衛星「あかり」とHSCを用いても行っており (Toba et al. 2020c, ApJ, 査読中)、今後素性調査を進めていきたい。
本年度は、さらに超巨大ブラックホール起源の放射で電離された周囲のガスの物理科学状態の調査も行いたい。我々は既に、超巨大ブラックホールの影響を受け激しい電離ガスアウトフローを伴う共進化途上期システムを数十個発見済み(Toba et al. 2017)であり、その中から特に激しい電離ガスアウトフローを伴う天体の面分光観測提案をすばる望遠鏡に昨年度再提出した(一昨年度提出した提案は不採択)。これが採択されれば、電離ガスの運動の2次元情報を取得可能となり、共進化を司るメカニズムの1つとして着目されている「活動銀河核フィードバック」と呼ばれる現象の現場に迫ることができる。
さらに、2019年2月から 東アジア最大の口径をもつ 京都大学「せいめい」望遠鏡の運用も開始された。我々は昨年度、観測を複数回実施し、現在データ解析中である。今年度も観測を予定しているため、これらのデータを総合的に解析することで「銀河合体」という現象が共進化にどのように影響を及ぼし得るのかを調べる予定である。
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