研究課題/領域番号 |
18J01101
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浅沼 尚 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | オフィオライト / チタン石 / U-Pb年代分析 |
研究実績の概要 |
世界最古の化石記録が報告されるオーストラリア・ノースポール地域の形成環境を解き明かす上で当該地域の大半を占める緑色岩の年代情報が鍵となる。そこで、本研究は緑色岩中に普遍的に含まれるチタン石に焦点をあて、最新鋭のレーザー技術および高い感度を誇る誘導結合プラズマ質量分析計(ICPMS)を組み合わせたウラン(U)-鉛(Pb)年代測定技術の確立に取り組んでいる。 本年度の研究実施状況としてはチタン石のU-Pb年代値を解釈するためのベンチマークを確立すべく、オマーンオフィオライト中のチタン石U-Pb年代測定に力を入れてきた。本研究は東京大学大気海洋研究所・秋澤助教との共同研究の一貫であり、比較的に形成履歴が明らかであるオマーンオフィオライトを対象にチタン石U-Pb年代測定を行い、その有用性を検討した。オマーンオフィオライトの形成過程は過去の中央海嶺での拡大期(101-95 Ma)と現在位置するアラビア半島へのオブダクション期(87-76 Ma)にわけられる。今回はチタン石14粒子を対象にLA-ICPMSを用いてU-Pb年代測定を行った結果、コンコーディア図上で回帰直線を得ることに成功し、U-Pb年代値は中央海嶺拡大期と良く一致する結果を取得できた。この結果は複雑な地殻変動を経験した岩石試料からもチタン石U-Pb年代系を用いることで海洋地殻の成長史を解読可能であることを示唆しており、太古代試料を対象とする際にも同様にチタン石U-Pb年代系が有用であることを支持している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
元々予定していた計画では、2019年度は(1) 水銀の干渉除去を目的としたコリジョンセルを搭載した四重極型誘導結合プラズマ質量分析計を用いた年代測定法の検討、(2)実試料測定を開始することを目標としていた。(1)については反応ガスとしてアンモニアを用いることで水銀干渉を充分に低減できたものの、目的である初生Pbの存在量が少なく、感度の向上が今後の課題である。(2)ついては目標達成には至っておらず、その主な要因は昨年12月に新規導入された高発振周波数型レーザー装置の基本特性評価に時間を費やしていたためである。現状ではレーザーアブレーション条件の最適化に成功しており、系統誤差±1%程度でのU-Pb年代測定が達成可能となった。 また、共同研究の一貫としてU-Pb年代測定を行ったオマーンオフィオライト中のチタン石が中央海嶺での熱水活動を記録していることが明らかとなった。この結果は緑色岩中のチタン石のU-Pb年代値を解釈する上でのベンチマークとして位置づけられ、今後、太古代試料へのアプリケーションに向けて大きな知見となった。以上の事から、上記の自己評価をするに至った。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究目標はノースポール地域の実試料の年代測定を開始することにある。残す課題は存在量の少ない初生Pbの定量にあり、本研究では新規導入された高発振周波数型レーザー装置を用いた高速多点アブレーションによって解決を試みる。高速多点アブレーションでは一秒間に60000発ものレーザー照射が可能となり、試料導入量の劇的な改善が見込める。これにより感度不足が問題となっていた初生Pbの定量が可能になると考えている。そのため、標準チタン石を対象に高速多点アブレーションを用いたU-Pb年代分析法の確度の評価を行った後、実試料へのアプリケーションを予定している。 ノースポール地域は全4つの緑色岩ユニットから構成されており、それぞれのユニットにおいてチタン石のU-Pb年代測定を行う。その後、得られる年代層序の極性からノースポール地域が付加体であるかを議論する予定である。これらの成果が得られ次第、学会や国際誌にて成果を公表していきたい。
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