抗がん剤治療は、広範囲のがんをその治療範囲とする点において他の方法よりも優れているが、抗がん剤治療によって生じる副作用は看過できない問題である。副作用が起こる主な原因としては、抗がん剤ががん細胞だけでなく正常細胞へも送達されることが挙げられる。さらに、抗がん剤が効きにくいがんに対する抗がん剤治療においては、この非選択性ゆえに抗がん剤の投与量を上げることができず、抗がん剤治療そのものを難しくする例も存在する。そこで本研究では、がん細胞選択的に抗がん剤を送達する方法論の確立・応用を目指している。
以下、特許出願の前なので、がんの種類、標的タンパク質、ペプチド配列、cPDCの構造等詳細は示さない。
本年度は、あるがん細胞で過剰に発現している膜タンパク質Aに結合する特殊環状ペプチドBを、薬剤と結合させた特殊環状ペプチド-薬剤複合体(cyclic peptide-drug conjugate: cPDC)を作成した。がん細胞の中でcPDCから薬剤が放出されるように、薬剤は適切なリンカーを介してペプチドBと結合させた。現在、作成したcPDCが仮説通り標的細胞選択的に細胞障害活性を示すかどうか評価を行なっている。また、cPDCの標的選択性は特殊環状ペプチド部位に依存すると考えられるため、このペプチドには高い血清安定性が求められる。そこで、ペプチドBの血清安定性を評価したところ、ある程度安定であることがわかった。ペプチドBの血清安定性をさらに向上させるため、ペプチドB配列の中で他のアミノ酸に置換可能なアミノ酸部位を特定した。また、この置換可能アミノ酸が、どのような側鎖を持つアミノ酸への置換が可能であるのかも明らかとした。これらの知見を基に、ペプチドBのアナログを種々合成した。その結果、ペプチドBよりも高い血清安定性を持ち、且つ膜タンパク質Aにも高い結合親和性を持つペプチド配列を見出した。
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