研究課題/領域番号 |
18J01239
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山本 尚貴 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞のキラリティ / 上皮組織のメカニクス / メカノバイオロジー |
研究実績の概要 |
本年度は、まず、「1細胞レベルでのキラルな力学特性が、形態形成における左右非対称性を生み出す」という本研究での仮説の理論的検証を行った。具体的には、上皮組織の多細胞ダイナミクスを記述する数理モデルである細胞バーテックスモデルに、一細胞が生成するトルクを導入した新規モデルを考案した。さらに、考案したモデルの数値計算を行うことで、細胞が集団的に一方向へ移動する条件を明らかにした。また、細胞バーテックスモデルの物性パラメータを変えることで、組織の不均一性を静的・動的に調節すると、系が不均一な場合に細胞の移動速度が速くなることがわかった。このように本年度は、1細胞レベルでのキラルな力学特性が、多細胞レベルで左右非対称性を生み出しうる、ということを理論的に実証した。本研究は、多細胞組織の左右非対称性の発生メカニズムに関して、新たなシナリオを定量的に提案しており、発生生物学の重要な課題である形態形成の左右非対称性の発生メカニズムの解明に向けて重要な結果である。現在、本研究の結果を論文に取りまとめて、投稿準備中である。 次年度以降は、本年度の理論的な結果を踏まえた上で、仮説を実験的に実証する。そのためには、まず、1細胞が生成するトルクの測定手法を確立し、細胞のキラリティを力学的に評価する必要がある。そこで、本年度は、我々が提案している、細胞のキラリティの力学的評価を行うためのマイクロウェルの作製方法の吟味を行い、次年度以降に、実際に細胞のキラリティの力学的評価を行うための準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、上皮組織において、各々の細胞の力学特性にキラリティがあると考えた場合に、細胞が一方向に集団運動を起こす条件を理論的に検討した。具体的には、上皮組織の数理モデルに、1細胞レベルの力学的なキラリティを導入したモデルを構築し、数値計算により、上皮組織を構成する細胞集団が一方向に運動することを示した。さらに、この一方向の運動の性質が、各種の細胞の力学的なパラメータにどのように依存するのかを検討した。本成果は現在、論文にとりまとめ、投稿準備中である。本研究は、細胞のキラルな力学特性が組織レベルでの左右非対称性を生み出すことを初めて理論的に示したものであり、重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度の理論的な結果を踏まえた上で、「1細胞レベルでのキラルな力学特性が、形態形成における左右非対称性を生み出す」という仮説を実験的に実証する。そのためには、1細胞が生成するトルクの測定手法を確立し、細胞のキラリティを力学的に評価する必要がある。そこで、今後は、我々が提案している、マイクロウェルを使用した細胞のキラリティの力学的評価の手法を確立する。そして、実際の動物の初期胚において、細胞レベルのキラリティと組織レベルのキラリティを力学的な観点からどのように結びつけることができるかを、本年度に得られた理論的な結果を指針として実験的に明らかにする。そして、多細胞生物で左右非対称性が発生するメカニズムを明らかにする。
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