研究課題/領域番号 |
18J01293
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
堀田 崇 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ホンソメワケベラ / 推移的推論 / reject-control relation / 比較認知科学 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、「これまで認知能力の検証がほとんどなされてこなかった魚類を対象として、認知機能の検証をおこない、その結果を種間比較することによって、認知能力がどのような要因で発達・進化してきたのかを明らかにする」というものである。本年度は当研究課題の初年度ということで、まずはホンソメワケベラを対象に色刺激を用いた推移的推論の検証をおこなった。 まずは6色のプレートを用意し、すりつぶしたエビをつける。このようなプレートを水槽内に入れて、すぐに食べられるようにプレトレーニングをおこなった。その後、その中から5色のプレートを選び、A、B、C、D、Eとした。ただし色の影響を少なくするためにBとDは白色か黒色とした。まずはトレーニングとしてA-B+、B-C+、A-C+、C-D+、D-E+、C-E+(+は正刺激、-は負刺激)の組み合わせでトレーニングをおこなった。ホンソメワケベラは霊長類、ほ乳類、鳥類とは異なり1日に多くの試行をこなすことができず(1日あたり18試行程度)、そのためトレーニングが長期間にわたってしまう。予備実験により、トレーニング終了時に、A-B+などのはじめにおこなった組み合わせの学習が低下している可能性が示された。そこで、本実験においてはそれぞれの組み合わせをもう一度学習させた。このようなトレーニングのあと、一度も提示されていない組み合わせであるBとDの組み合わせを提示し、その選択を記録した。もし本種に推移的推論ができるなら、A<B<C<D<Eという関係を導き、有意にDを選択すると期待される。これまで私は3個体で実験を終えており、そのうち2個体でこの予測を支持する結果を得た。 現在は2個体で実験を継続中であり、5個体のデータがそろえばデータをまとめ学会や論文で報告していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の記入欄にも記載したが、今年度は本課題における初年度である。受け入れ研究室においてはこれまで海水魚を飼育した経験もなく、その設備もなかった。そこで私はまず、ホンソメワケベラを飼育する環境を整えることからはじめた。受け入れ研究室に着任から2か月が経過したころには飼育環境を整えることができ、夏ごろからはホンソメワケベラの飼育をはじめた。飼育場所や実験場所の制約により、一度に2個体ずつしか実験ができなかった。さらに、推移的推論実験を開始する前のプレトレーニングとしての「プレートからエサを食べることを学習する」ということに長い個体では1か月程度かかってしまい、その進捗については少し遅れてしまった印象はある。 しかし、推移的推論に関する検証実験をおこなっていくうえで、ホンソメワケベラは刺激の弁別において「負刺激を避ける傾向(reject-control relation)」があると考えられた。このことは今後ホンソメワケベラで実験をおこなっていくうえでとても重要な知見であると考えられたので、私はこのreject-control relationの検証も並行してすすめた。このreject-control relationについては現在8個体で実験をおこなっており、予測を支持する結果を得ている。またホンソメワケベラに関する文献を調べていくにつれ、このrelationが本種の生態と強く結びついているのではないかと考えるようになった。そこで、今後はこのreject-control relationについても種間比較をおこなっていく予定である。さらに、10月におこなわれた関西心理学会においてこの研究について発表し、奨励賞を受賞することができた。 これらのことから、全体的には概ね想定通りの進捗をしていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はホンソメワケベラを対象として、主に推移的推論とreject-control relationという2つのトピックについて検証実験をおこなった。このような実験はこれまでおこなわれておらず、方法について探り探り実験をすすめ、その方法の確立するに至った。現在推移的推論について実験中の2個体のデータがそろい次第、解析をすすめていく予定である。またトレーニング時に受けた報酬によりDを優位に選択できるということが説明できる、という可能性もあるので、これについてはシミュレーションをおこなっていく。Reject control relationについてはすでに解析も終えているので、随時論文の執筆に移行する。 来年度は、初年度にホンソメワケベラを対象として確立された実験系を使い、他種での検証を目指す。主な対象として考えている種は、ホンソメワケベラの近縁種であるソメワケベラである。ソメワケベラはホンソメワケベラとは異なり、自らクライアントを探しに行って掃除をする。そのためホンソメワケベラよりも多くの「ずる」をすることが知られており、過去の経験やクライアントの種に応じて掃除を調整していないと考えられる。もし推移的推論がカケス類や原猿類で示唆されたように、集団の大きさや社会関係の複雑さによって進化したのなら、ソメワケベラの推移的推論能力はホンソメワケベラと比較してあまり発達していないと考えられる。またreject-control relationにおいても同様に結果が得られると期待される。 ソメワケベラは熱帯魚の卸業者から入手することができる。そこで遅くとも6月までには飼育を開始する。ソメワケベラはホンソメワケベラよりもサイズが大きく、飼育がむずかしいと考えられるが、飼育水槽の大きさやエサを調整しながら飼育の確立を目指す。安定した飼育ができれば、随時実験をおこなっていく予定である。
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