研究課題/領域番号 |
18J01296
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
平野 信吾 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 星形成 / 数値シミュレーション / 磁気流体 / 宇宙物理 |
研究実績の概要 |
恒星進化過程を決定づけるパラメータとして星質量・自転速度が調べられているが、 星形成シミュレーションでは計算コストが問題となり星表面へのガス降着を厳密に解くことはできていない。本研究課題では、星形成中における角運動量輸送過程をモデル化し、形成環境に応じた星質量・自転速度を求めることでその分布を示す。 本研究課題の初年度(H30)は、角運動量輸送において重要な磁場の影響を取り扱えるようになるために、3次元非理想磁気流体シミュレーションに着手した。磁場を介した角運動量輸送を理解するために、観測結果との比較が可能な現在の星形成過程を数値計算し、星周円盤・アウトフローの形成への影響を調べた。その結果、星形成ガス雲の回転軸と磁力線方向のなす角度が大きくなると、原始星はより重く、星周円盤はより大きくなり、アウトフローは吹き出さなくなる傾向が得られた。これはガス雲の初期条件によって角運動量輸送過程が変化することが原因である。回転軸・磁力線の方向が揃っていないことは近年の観測からも示されており、星形成モデルを構築する際に考慮する必要があることがわかった。 この成果をまとめた最初の論文はMNRAS誌に受諾され、2019年3月に出版された。初期条件モデルへの依存性を調べた成果は2本目の論文にまとめている。本年度はこの他にも、国際会議2件での招待講演をはじめとして、精力的に成果発表を行った。 また今回の研究成果において磁場・星周円盤・アウトフローの複雑な構造が重要な意味を持つが、これを論文の図表からは読み取ることは難しい。そこで可視化結果をWebブラウザ上で表示することができる公開データベースを構築した。3次元構造を拡大縮小・視点移動しながら確認できるため、観測された構造と容易に比較できる今後の計算結果もデータベースに掲載することで、シミュレーション結果の利用を促す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
着任後、本研究で新たに利用する非理想磁気流体数値コードについて、受入研究者と議論しつつその使い方を習得した。シミュレーション結果の解析と可視化を行うコードを新たに作成し、これを用いた原始星の回転軸と磁場に関する研究結果をまとめて国際誌(MNRAS)に投稿し、受理され出版されている。この研究は当初の目的であった原始星進化の基礎的な理解を深めるだけでなく、近年のALMA望遠鏡による若い星の周りの円盤形成・ジェット駆動に関する観測結果を説明する上でも重要である。また出版された論文の発展的な内容の研究についても既に結果が出ており、論文として投稿準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で非理想磁気流体コードを用いたシミュレーション・解析を行うことが可能となった。この時、現在の星形成に対応した計算設定を用いており、計算初期条件としてBonnor-Ebert球モデルを採用していた。次年度では、まず初代星の形成環境に対応した計算設定への切り替えを行い、次に宇宙論的シミュレーションより得られた始原的星形成ガス雲を初期条件とした数値シミュレーションを行う。計算結果の解析・可視化手法は初年度に確立したので、本年度では原始星成長の星形成ガス雲パラメータへの依存性を調べる。本年度で数値シミュレーションの大部分を完了させ、最終年度には角運動量輸送過程モデルへとまとめられるよう進めていく。 数値シミュレーションに必要な計算資源は確保済みである。また本年度後半にはスイス・チリでの国際会議への参加が決まっており、本研究の成果をまとめて発表・共有し、内容を議論する。
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