研究課題/領域番号 |
18J01307
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田原 進也 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 紫外光受容タンパク質 / 紫外共鳴ラマン分光法 |
研究実績の概要 |
紫外光受容タンパク質UVR8の二量体解離に伴うタンパク質構造変化を解明するため、UVR8二量体およびUVR8単量体の定常紫外共鳴ラマン分光測定を行った。ラマンプローブ波長を230 nmとし、回転セルを用いて測定を行った。単量体UVR8試料は、二量体UVR8試料に254 nmの紫外光を3分間照射することにより得た。二量体と単量体のスペクトルを比較したところ、トリプトファン・チロシンの各振動モードに有意な振動数の違いが見られなかったが、単量体UVR8中のトリプトファンの共鳴ラマン信号の強度が二量体と比べて小さいことが明らかとなった。トリプトファンの周囲の親水性が大きくなると、230 nmのプローブ光で得られる共鳴ラマン信号強度が小さくなることが分かっている。実験結果は、UVR8が二量体結合界面に持つ5つのトリプトファンを含むクラスター構造が、単量体になると水に露出することを強く示唆する。 UVR8の光受容に関与するトリプトファンの構造・周辺環境の特異性を明らかにするため、二量体UVR8の定常紫外共鳴ラマンスペクトルと水溶液中のトリプトファンのスペクトルを比較した。得られた共鳴ラマンスペクトルと水溶液中のトリプトファンのスペクトルを比較したところ、各ラマンバンドの相対強度および振動数に有意な違いが見られなかった。このことはUVR8はトリプトファン残基を13個有するが、そのうちの限られたトリプトファン残基だけが特異構造・周辺環境を有することを示唆している。この結果を受け、285番目のトリプトファン(W285)をフェニルアラニンに置換したW285F変異体が二量体解離を起こさないという既報に基づき、二量体結合界面に存在するW285が特異性を示すという仮説を立てた。今後は野生型UVR8とW285F変異体のスペクトルから、W285のスペクトルを抽出し、W285の特異性を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
UVR8の二量体解離に重要となるトリプトファン残基の構造および周辺環境の特異性を、変異体を用いて解明することが、当初の計画であった。しかし野生型UVR8の測定・解析は完了したものの、変異体の測定を終えるには至らなかった。 当初は既報に基づいて野生型UVR8の試料調製を行う予定であったが、この方法では紫外共鳴ラマンスペクトルを測定するに足る収量・純度が得られないことが分かった。このため、大腸菌の培養条件や精製方法の検討が必要となり、当初の計画以上の時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
285番目のトリプトファン(W285)をフェニルアラニンに置換したW285F変異体と野生型UVR8のスペクトルからW285のスペクトルを抽出し、W285の構造および周辺環境の特異性を明らかにする。W285Fは二量体解離を起こさないことが知られており、W285が二量体解離において重要な役割を果たしていることが示唆されている。このためW285は、一般的なタンパク質中のトリプトファンには見られない構造・周辺環境を有することが予測される。得られたデータに基づき、W285の構造および周辺アミノ酸・溶媒との相互作用について議論する。 UVR8の二量体解離ダイナミクスとその機構を解明するため、マイクロ秒時間分解紫外共鳴ラマン分光測定を行う。紫外プローブ光によって時間分解測定を行うことにより、UVR8中のトリプトファンおよびチロシンの構造・周辺環境変化を明らかにする。 また、トリプトファン残基が過渡的にラジカル状態をとる可能性もありうる。トリプトファンラジカルは可視領域に吸収帯を持つことが知られている。したがって可視プローブ光による時間分解測定も行い、ラジカル種が生成しているかどうか、ラジカル種がどのような構造を持つかを明らかにする。 以上の測定を二量体解離を起こさないW285Fについても行い、野生型UVR8と比較することにより、二量体解離の鍵となる構造変化を抜き出す。これらの知見からUVR8の二量体解離機構を解明する。
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