研究実績の概要 |
本年度は,認知診断モデルのうち最も基本的なモデルであるDINA(deterministic input noisy and gate)モデルを対象に理論的な研究を行った。まず,DINAモデルの定式化を改めて行い,有限混合モデルや潜在クラスモデルの特殊なケースと捉えることにより,EM(expectation maximization)アルゴリズムやMAP(maximum a posteriori)推定値を得るためのアルゴリズムおよびGibbsサンプリングアルゴリズムを一貫して導出することに成功した。さらに,新しい定式化のもとEMアルゴリズムを用いた数値計算にもとづく標準誤差の推定方法をDINAモデルに適用し,シミュレーションを用いてその有用性を検討した。DINAモデルの新しい定式化にもとづき,EMアルゴリズムとほぼ同じ計算量であるにもかかわらずベイズ的な推定量を得ることができる変分ベイズ(variational Bayes, VB)法の推定アルゴリズムの導出を行った。シミュレーション研究や実データ解析の結果から,VB法による推定値は乱数に基づく事後分布の近似法の一つであるGibbsサンプリングと類似した推定値を得ることができることを確認し,推定にかかる時間は実用上十分に高速であることが示唆された。さらに,新しいモデルとして,能力の間の補償・非補償関係をどちらも表現することが可能である,Hybrid cognitive diagnostic model(H-CMD)を開発した。モデルの推定には,ハミルトニアンモンテカルロ法を実行できるStan言語を用いた。シミュレーションから,真値をバイアスなく復元できることが示唆された。本年度の成果は学会発表を行い,学会誌への投稿も合わせて行っている。
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