研究課題/領域番号 |
18J01320
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸本 史直 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 層状ケイ酸塩 / フォトンアップコンバージョン / 三重項エネルギー移動 / 光触媒 / 水分解 / インターカレーション |
研究実績の概要 |
層状ケイ酸塩層間で三重項状態の分子が衝突することに基づくフォトン・アップコンバージョンの実証に取り組んだ。天然産出の層状ケイ酸塩モンモリロナイトをアルキルアンモニウムと反応させ、層間を疎水化した。その後、疎水性相互作用によってジフェニルアントラセン(C26H18)を、層間カチオンとのイオン交換法によりRu(dmb)23+を導入した。514 nmから432 nmへのフォトン・アップコンバージョンに成功した。この実証での問題点は、十分な量子効率が得られなかったことである。その理由を、疎水性相互作用による層間へのC26H18導入方法では、三重項励起状態の分子間での多重衝突が効率的に起こるほど十分に密な層間C26H18導入には至っていなかったため、と考察した。実験結果を基に、アントリルアンモニウムを出発とするイオン交換法による層間導入を検討した。この実験で、波長600 nm付近に吸光を持つ青色生成物を得た。波長600 nm付近の吸光は、アントラセンラジカルカチオンによる光吸収に帰属できることが、電子スピン共鳴分光法および時間依存密度汎関数法によって明らかにった。すなわち、粘土層間にアントリルアンモニウムを導入することで、層間においてアンモニウム基が脱離し、常温大気中で安定なアントラセンラジカルの生成に成功したと結論できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
多孔性アルミノケイ酸塩「ゼオライト」の一次元細孔内にアントラセンを導入することで、常温大気中で安定なアントラセンラジカルが生成できることは知られていたが、本研究では初めて二次元の粘土層間においてアントラセンラジカルが生じることを発見したと結ぶことができる。当初の研究計画では想定をしていなかった発見であるため、本研究が「当初の計画以上に進展している」と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に則り、層状ゼオライトの層間への分子導入とフォトン・アップコンバージョンの実証を目指す。今年度の研究結果を踏まえると、光触媒反応に対して十分な発光強度のフォトンアップコンバージョンを実現するには、1.層間に対して密に発光性分子を充填する必要がある、2.ケイ酸塩表面の酸点と反応しにくい発光性分子を選択する必要がある。そこで、MWW型ゼオライトの前駆体である層状ボロシリケートを出発物質として、表面にシランカップリング剤を介したチオール基修飾を施す。アルケニル基を有するアントラセン誘導体と、ゼオライト表面に修飾されたチオールとのチオール-エンクリック反応によってアントラセン誘導体を共有結合的に固定化する。チオール基の修飾量によって、アントラセン誘導体の充填量を制御し、高効率で発光するアップコンバージョンの達成を目指す。
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