研究課題/領域番号 |
18J01320
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸本 史直 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 人工光合成 / フォトンアップコンバージョン / 太陽光エネルギー / 層状化合物 / 粘土材料 |
研究実績の概要 |
1.フォトン・アップコンバージョン材料を用いた光触媒反応の実証:昨年度の研究で、層間にアントラセン誘導体・ルテニウム錯体化合物を集積した層状ケイ酸塩に500 nm域の緑色光を照射すると、400 nm域の青色光を発するフォトン・アップコンバージョンが起こることを明らかにした。今年度は、この材料を400 nm域の光照射で駆動する酸化タングステン光触媒とともに水に分散し、ローダミンBの光触媒的な分解反応を実証した。この実験で、酸化タングステン光触媒が吸収できない500 nm域の光照射下においても、光触媒反応が進行することを明らかにした。すなわち、アントラセン誘導体・ルテニウム錯体化合物を集積した層状ケイ酸塩が500 nm光を400 nm光に変換(フォトン・アップコンバージョン)し、発生した400 nm光によって酸化タングステン光触媒が駆動するメカニズムである。この成果の最も重要なポイントは、三重項励起状態をクエンチしてしまう水・酸素の存在下でもフォトン・アップコンバージョンが起こり、その光を使った触媒反応が進行できることである。 2.粘土層間でのアントラセン誘導体ラジカルカチオン安定化に関する研究:本研究において、アントラセン誘導体のより密な層間導入を目的としてアンモニウム基を有するアントラセンを層状ケイ酸塩の層間にイオン交換法で導入したところ、層間でアンモニウム基の脱離を介してアントラセンラジカルカチオンが生成することを偶然発見した。このアントラセンラジカルカチオンは高い熱安定性と光安定性を備えており、この材料を安全かつ安価で保管可能なラジカル開始剤として見ることができると考えた。実際にスチレンのラジカル重合反応への利用を実証し、アントラセンを末端基に有するポリスチレンの合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.フォトン・アップコンバージョン材料を用いた光触媒反応の実証によって、本研究で合成したフォトン・アップコンバージョン機能を有する層状ケイ酸塩材料が、光エネルギー変換反応に関する研究開発に資するものであることが明確に示された。 2.粘土層間でのアントラセン誘導体ラジカルカチオン安定化に関する研究では、申請書の段階では予想できなかった新たな現象を発見することに成功し、ラジカル開始剤として利用可能かつ新規高分子材料の開発に資することを実証することができた。 以上の結果を踏まえ、本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である、フォトン・アップコンバージョン機構を介して発生した短波長光を駆動する光触媒的な水分解反応を目指す。そのためには、層状ケイ酸塩層間に導入したアントラセン誘導体・ルテニウム錯体化合物によるフォトン・アップコンバージョンの量子効率を、より一層向上させる必要がある。今年度合成した材料では、層間のアントラセン誘導体が希薄(平均分子間距離3.0 nm)であることが判明した。このことから、ルテニウム錯体からアントラセン誘導体への励起三重項エネルギー移動過程が全体の量子効率のボトルネックになっていると考えられる。層間のアントラセン誘導体の平均分子間距離1.0 nmを目指して、水熱合成条件での層間導入、エバポレーション法による層間導入などを試み、より密なアントラセン誘導体の集積を試みる。十分な量子効率が得られたところで、水素発生用光触媒・酸素発生用光触媒などと組み合せて水の全分解反応を遂行する。
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